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大晦日の夜、薄暗い部屋で三人が顔をつき合わせてなにやら密談をしていた。

「稲を真田家に嫁がせようと…」

そう呟いた忠勝本人は意識していないだろうが、低い声は威圧感に満ちている。

「ほう…真田家に…?」

家康は驚いたような声を出したが、その言葉をどこか予測していた感がある。

それは静かに控えている半蔵にも言えることだった。

「はっ…恐れながら真田は侮れぬかと…」

「うむ…」

いつ周りの大名達に潰されてもおかしくないほどの小領主なのに、その領地を守り続ける手腕は只者ではないだろう。

今の内に縁を通ずるのも悪くはない。

「…それで?どちらに?」

家康の手元にある情報では、真田家には男子が二人いるはずだ。

長男の信幸か次男の幸村か。

その家康の問いに、忠勝は半蔵に視線を向けると

「どちらが良いか…貴殿の意見を聞きたい」

実は配下からの報告で少し耳にしたという程度で、半蔵もあまり詳しく知っているわけではない。

いや、次男とは確か戦場で何度か相見えたことがある。

だがそれは敵としてであって、本当の姿ではないと忠勝とて分かっている。

その上で問い掛けてくるということは、半蔵達のような影の者しか知らない情報はないかということ。

「…長男次男共に、悪評はござらぬ」

一つや二つ城主やその息子に対しての噂があるものだが、真田に関しては何故かそれがない。

真田の抱える草の者が情報を操作している可能性もあるが、とりあえず半蔵はそれだけを答えた。

彼はあまり憶測でものを言うのを好まない。

「ならば…長男に狙いを絞るか…」

ぽつりと呟いた家康の言葉に、二人とも頷く。

どちらか一方でよいとしても、大事な跡取り息子との婚姻を認めるかどうかで、あちら側の誠意も確かめられるというもの。

「殿…つきましては頼みたき儀がございます」

「申せ」

「はっ…此度のこと、半蔵に一任したいと思います」

「半蔵に…?」

家康は驚いたようだが、すぐに頷くと

「よい。半蔵…行ってやれ…」

忠勝の独断ではなく家康からの命令となった途端、半蔵の切り替えは早かった。

「御意」

そう言って頭を垂れると、すぐに出立の用意に取り掛かった。





その翌日の出発の日は、とても気持ちの良い快晴だったが、半蔵にとってそれはあまり意味を成さなかった。