[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
大晦日の夜、薄暗い部屋で三人が顔をつき合わせてなにやら密談をしていた。
「稲を真田家に嫁がせようと…」
そう呟いた忠勝本人は意識していないだろうが、低い声は威圧感に満ちている。
「ほう…真田家に…?」
家康は驚いたような声を出したが、その言葉をどこか予測していた感がある。
それは静かに控えている半蔵にも言えることだった。
「はっ…恐れながら真田は侮れぬかと…」
「うむ…」
いつ周りの大名達に潰されてもおかしくないほどの小領主なのに、その領地を守り続ける手腕は只者ではないだろう。
今の内に縁を通ずるのも悪くはない。
「…それで?どちらに?」
家康の手元にある情報では、真田家には男子が二人いるはずだ。
長男の信幸か次男の幸村か。
その家康の問いに、忠勝は半蔵に視線を向けると
「どちらが良いか…貴殿の意見を聞きたい」
実は配下からの報告で少し耳にしたという程度で、半蔵もあまり詳しく知っているわけではない。
いや、次男とは確か戦場で何度か相見えたことがある。
だがそれは敵としてであって、本当の姿ではないと忠勝とて分かっている。
その上で問い掛けてくるということは、半蔵達のような影の者しか知らない情報はないかということ。
「…長男次男共に、悪評はござらぬ」
一つや二つ城主やその息子に対しての噂があるものだが、真田に関しては何故かそれがない。
真田の抱える草の者が情報を操作している可能性もあるが、とりあえず半蔵はそれだけを答えた。
彼はあまり憶測でものを言うのを好まない。
「ならば…長男に狙いを絞るか…」
ぽつりと呟いた家康の言葉に、二人とも頷く。
どちらか一方でよいとしても、大事な跡取り息子との婚姻を認めるかどうかで、あちら側の誠意も確かめられるというもの。
「殿…つきましては頼みたき儀がございます」
「申せ」
「はっ…此度のこと、半蔵に一任したいと思います」
「半蔵に…?」
家康は驚いたようだが、すぐに頷くと
「よい。半蔵…行ってやれ…」
忠勝の独断ではなく家康からの命令となった途端、半蔵の切り替えは早かった。
「御意」
そう言って頭を垂れると、すぐに出立の用意に取り掛かった。
その翌日の出発の日は、とても気持ちの良い快晴だったが、半蔵にとってそれはあまり意味を成さなかった。
戻