時折、おかしな夢を見る。

潮の香りも、海原の色も、太陽の強さも、殺気だった緊張感も…やけに鮮明で。

しかも己は独りではなく、左側にかなり背の高い男が立っていることもはっきりと分かる。

ちらりと横を見遣れば、海の色にも似ている眼は、水平線の向こう…ここではない遠くへと向けられている。

精悍な顔がこちらを見ていないことを若干残念がっている己に驚きつつ、その横顔から視線を離せないでいた。

すると、こちらを見ないまま急にその男が口を開く。

「絶対ぇ護るから」

突然の言葉に驚くが、ある程度予測していたのか夢の中の自分は思ったより取り乱さない。

ただ、抑えきれないほどの嬉しさと、遣る瀬無いほどの狂おしさが胸に残った。

それを誤魔化すように口を開けば、するりと嫌味が飛び出す。

「戯言なら己の器を見極めてから言うが良い」

「いや、本気だって!!」

外見にそぐわないほど取り乱しながらツッコミを入れてくる男の顔は、左半分が紫色の布で覆われていた。

夢の中の自分は、その理由を知っているのか、今更何も問い質しはしない。

「お前のような若造に護られるほど耄碌しておらぬわ」

「全く…素直じゃねぇなぁ…」

どんなに突き放した言い方をしても、腹を立てずに全て許容してくれる。

恐らく彼の方が年齢的には下なのだろうが、この落ち着きはどこから来るのだろう。

あまりにも許されると、逆に不安になるものだが、何故か彼の言葉は迷い無く信じられる気がした。

夢の中の彼と夢の中の自分の関係は分からないが、人を信じられない自分がここまで素直になれるのなら、それなりに深い関係なのだろう。



それが、誇らしかった。



そして夢は、幸福なまま覚める。

だが、何か忘れているはずなのだ。

時々、ノイズ混じりの続きを見ることがある。

それは、とても絶望的な結末。

だから、本当は幸せなだけではないはずなのだ。

それでも、誇らしかった。







そんなことばかり考えていると、ここ最近になって夢の中の人物と目の前の男が似ていることに気付き始めた。

正確には、同性であるはずのこの男を、恋愛対象としてしか意識できなくなってしまった時から。

己の幼馴染である男は、ちょっとした理由から左目をガーゼで隠している。

それが更に夢の中の人物の眼帯を思い出させ、思わず凝視してしまう。

「なぁ…」

見つめられて気まずそうな男は、それでも目を逸らさない。

「ちょっと話、聞いてくんねぇ?」

「構わん」

夢の中そのままに尊大な物言いの自分に、夢の中によく似た男は腹も立てず口を開く。

「ここ最近、変な夢を見るんだけどよ…」

話を聞いているうちに、ぞっとした。

それは恐怖としか表現のしようがない。

同じだったのだ。

己と、全く同じ夢を見ていたのだ。

ただし彼は、自分がノイズ混じりにしか見られない続きの方を、鮮明に見るようだ。

その夢の中で血の海に倒れていく男が、自分に似ていると言って手を握り締めてきた。

やけに不安になって、言わずにいられなかったらしい。

話しているうちに感極まって、泣きそうな顔で握り締める手に力を込める男が、やはり夢の中の人物と重なる。

熱い手につられるように、思い切って自分の夢も話した。

真剣な表情の男は、恐らく同じことを考えている。

その証拠に、夢の中の横顔と少しも変わらぬ表情で呟いた。



「今度は、護るから」



ずっと想い続けた人の声が、心地良く耳に触れる。





躊躇いがちに触れ合った唇で、唐突に気付く。







生まれる前から探していた人は、この人だったのだ、と。