佐助はその日、見てはいけないものを見てしまった。
学校の帰り道で、急に幸村が寄り道したいと言い出した。
何故か元就も一緒に。
どうやら幸村と同じように甘味が好きらしく、いつの間にか二人は仲良くなっている。
最初の頃こそ佐助は彼を苦手としていたが、刺々しい口調も冷たい視線も、全て弱い自分を隠すものだと気付いてしまった。
もともと世話好きでもある佐助としては、そんな危うい彼を放って置けなかった。
まあ佐助が気にしなくても、既に彼には専属の癒し系の恋人(?)がいたようだ。
見ただけだったら絶対に癒されないような元親で、元就は彼なりのバランスをとっている。
男同士ということで最初は引きかけた佐助だが、あまりにもベストコンビ(カップル?)なので、その違和感はもう無い。
それに元親がいれば、元就の棘だとかは彼に向かうので、元親がいる方が何かと便利だ。
そんなことより問題は、佐助が将来働くであろう会社の御曹司、幸村までもが男と付き合ってしまったことだ。
しかも相手は一部で悪名を轟かせている政宗である。
オカン…ではなく世話役としてはどうにか別れさせたいところだ。
その政宗、学校での成績は悪くないし、先生受けも悪くない。
更に喧嘩をしても、警察がやってきたら風のように立ち去って、その痕跡を一切残さない。
同じ不良でも元親のような、どこか抜けている方がまだ佐助的には好感が持てる。
成績は中の下、先生受けもまあまあ。
喧嘩中に警察が来ても手下だけ逃がして、自分が追いかけられる。
ちなみにいつも逃げ切っているという恐ろしい記録を持つ。
(……いや…やっぱどっちも駄目だろ)
ようやく我に返った佐助は、その時見てしまったのだ。
一緒に歩いている幸村と元就に、決して見せてはいけない光景を。
視線の先には、見覚えのありすぎる悪友が二人…
更にその隣には、遠目からでも分かるほど可愛らしい女の子が二人…
(そういや…今日は昼からフケてたよなぁ…)
でもまさかそういう理由だとは。
歩みを止めた佐助を不審に思ったらしく、二人とも立ち止まる。
「どうした佐助?知り合いでもいたのか?」
「ふん…どうせ好みの女でもいたのだろう」
馬鹿にしたような元就の言葉にカチンときたが、今はそれを利用することにした。
「ははっ…まぁね…」
だが、それは逆効果だったらしい。
「どこだ!?佐助の好みのおなごは!!」
こんな時ばかり、変に興味を示した幸村が辺りを見回す。
「うえぇ!?あ、いや!!もういないって!!」
「いや、追いかければ間に合うかもしれぬぞ!?」
「いやいやいやいや、追いかけないって!!」
「む、かすが殿にふられた後なら、もう操立てする必要もあるまい?」
「操立て…!?っていうか、ふられたってはっきり言わないでよ!!」
「仕方あるまい!!」
「仕方なくない!!」
「泣くな佐助!!」
「泣きたくもなるわ!!」
そんな二人のやり取りを見つつ、元就は素早く辺りを見回す。
そして、見覚えのある銀髪の長身の男を見つけてしまった。
「…なるほど…な」
「げ…」
元就の視線の方向から、隠そうとしていたものを見られたと悟った佐助は、妙な声を出した。
八つ当たりでもされるかと、びくびくしている佐助になど見向きもせず、元就は神妙な様子で幸村に声を掛けた。
「真田…どうやら猿飛の見ていた人物は、女ではなかったようだ」
「「え?」」
「残念だが、男だ」
(言っちゃっていいの!?)
本当のことを言ってしまった元就を凝視すると、何やら勘違いをしたらしい幸村がぽんと肩を叩いた。
「そうか…佐助……まあ、そういうこともある…」
「え!?何その憐れみの目!?」
「気にするな…」
心底同情を寄せられて、余計に泣きそうになった佐助に、元就は視線だけでその場を立ち去ろうと促している。
幸村に見せたくないのは、お互い共通する思いらしい。
「そ、そうだ!!旦那!!甘味処行こう!!」
「何!?新しい店を見つけたのか!?」
「うん!!そうそう!!」
「ならば行く!!」
「よし決まり!!日輪の旦那もどう!?」
「…行く」
数日前にリサーチしていた店の中で、幸村には見せてはいけない光景から最も遠い店を思い描く。
「確かこっちに和菓子系統のお店が…」
「おお!それは楽しみでござるな!!」
「……うむ」
もう一度振り向いた佐助の目には、もう悪友達の姿は見えなかった。
店に付いた途端、メニューに没頭してしまった幸村を他所に、佐助は隣に座った元就に声を掛けた。
「あのさ…鬼の旦那がさ…女の子と歩いていても…平気なわけ?」
佐助としては、あそこで元親に飛び掛っていくというのが、元就に抱くイメージだった。
人を観察することに長けている佐助からすると、元就の元親への依存度はその逆より遥かに高いものだ。
「別に…どうでも良い」
だが、注文を決めつつあっさりと答える元就には、そういった態度は微塵も無かった。
むしろ注文を決める方に力を入れているように見えて、佐助は己の観察眼の衰えを思った。
肩透かしを食らった顔の佐助に気付いたのか、元就は高圧的な笑みで
「まぁ…地面に這い蹲らせて思う存分啼かせてやろう、とは思ったがな」
言葉だけを聞けば、随分な女王様だ。
しかし、言葉とは裏腹にその笑みはどこか歪で、明らかに傷付いている。
(こりゃ…重症だなぁ…)
二人の関係が終わることに怯えている瞳に、佐助は何も言えない。
ただ、これから運ばれてくる甘味が、少しでも彼の慰めになればいいと思った。
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