バカップルの話を聞いていたら、片思いの彼女に会いたくなった。
誰かに愚痴りたかったってのも、本当。
無性に声が聞きたくなったってのも、本当。
ただひたすら会いたいと思ったのも、本当。
「…っていうわけ。結局あの人達…何だったんだろうね…」
「知るか」
いきなり呼び出して、いきなりバカップル二組の話を始めた佐助に、かすがは冷たい目を向けている。
だが、佐助の誘いを無視しないあたり、彼女はかなり律儀な性格をしているようだ。
彼女は彼らのことを知っている。
男同士ということに対する嫌悪感はないのか、しょっちゅう佐助の愚痴に付き合ってくれている。
「だいたい浮気をする伊達と長曾我部は赦せない」
「だよね…本当に…何で赦しちゃったんだろう…」
脳裏に過ぎるのは、いつもの明るい笑顔を曇らせた幸村と、傷付いたような表情を浮かべる元就だった。
「浮気した奴らも奴らだが、それを赦した真田と毛利も相当な馬鹿だな」
彼女の言葉に容赦は無い。
それは彼女自身があまり恋愛に縁が無い故の、客観的過ぎる意見であるのだが。
苦笑を浮かべた佐助は
「じゃあ…かすがちゃんは浮気は赦さないタイプなんだ〜」
「勿論だ。速攻で別れてやる」
「ふ〜ん…だったら俺なんかどう?オススメ!!浮気なんかしないよ?」
「浮気以前の問題だ。貴様など眼中に無い」
きっぱりと言い切る不信感も顕な表情に、微かに佐助は溜息をついた。
「大体…いつもそう言っているが…お前、本気ではないのだろう?」
その表情そのままのかすがの言葉に、息を呑んだ佐助は慌てて
「えっ!?俺はいつでも本気だったんだけど!?」
その言葉が演技か本気かが分からないほど、二人は浅い付き合いではない。
「…え…?」
一気に赤くなったかすがの頬に、消えかかっていた希望の灯火が燃え上がるのを感じた。
「もしかして…脈アリ?」
「な…ない」
「じゃあ待つよ」
「え?」
「お前が謙信さんにフられるまで…」
いつもどこか飄々とした男には珍しく真剣な眼差しに、かすがの眉間に皺が寄る。
「…ごめん…酷いこと言ってるって自覚はあるんだけどさ…」
そう言って気弱げに微笑む様は、いつもの佐助だった。
「謙信様は…」
「知ってる。武田の旦那を好きなんでしょ?」
「…そうだ」
少しだけ悲しそうな表情のまま俯くと
「でも…あの方は…それを伝えられない」
「まぁ…そうだろうねぇ…」
ライバル会社の社長同士だなんて、今時ロミジュリか?とも思う。
「…だから…謙信様の恋が成就するまで、私はそのお手伝いをしたい」
「へ?かすがって…謙信さんが好きなんじゃ…」
「何だと!?私は…あの方を尊敬しているが…そういった風に見たことはない」
幸村の信玄に対する愛情と、かすがの謙信に対する愛情が同じことに漸く気付いた。
そこに色恋などといったものはなく、彼女は純粋に謙信の想いを遂げさせたいと思っているようだ。
色恋の色眼鏡で、己の観察眼を鈍らせていたことに気付いた佐助は、かなり大きな溜息をつく。
「…でさ…俺のこと、嫌いだったりする?」
「べっ…別にそれほどは…」
「…待ってても、いいわけ?」
あの二人が、どのような形であれ、その恋に決着をつけるまで。
「か、勝手にしろ」
「待つよ?」
「……待てるのなら…な…」
小さな声で告げられた言葉に、佐助の頬は緩むのを止められない。
もしかしたら、ずっと前から二人は同じ気持ちだったのかもしれない。
(俺は浮気なんか出来ないなぁ…)
そんなことを思ってにやける頬を、かすがは容赦なく咎めた。
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