夜中にやってきたと思ったら、何も言わずこちらを見ている。
別に見つめ返してやる気も義理もないので、時々は話しかけたりしながら本に視線を落としていた。
「バードはタイガーが嫌い?」
子供のような単純な問い掛けとは裏腹に、その目は明らかに獲物を狩る虎の目だ。
迂闊なことを言ってしまえば、その牙が己に向かってくることは明らかだった。
だから、いつも何も気付かないふりをして微笑む。
「んな訳ねーだろ?」
そう、それは本当にごく普通の答え。
友達としての、ごく普通の答え。
「違う。男として」
そろそろ誤魔化しが利かないところにまで来てしまったらしい。
自分ほどではないが、なんだかんだ言って気の長い方ではないタイガーのことだ。
これ以上逃げ続ければ、本気で狩られてしまうだろう。
それから逃げ切れる自信は……無い。
「……あぁ…そういう意味?」
まるで、今さっき気付いたと言わんばかりに
「俺さぁ…男同士…っつうの?…そういうの……ちょっと、分かんねぇんだよ…」
未知の領域だし。
それでもいつものように誤魔化そうと、苦いものになったがとりあえず笑ってみた。
「…それは…バードが分かろうとしないから」
いつにない低い声に、思わず傷跡の残る顔を凝視する。
その視線に含まれた怯えに気付いたのか、タイガーは微かに笑った。
……いや…嗤った。
まずいと思った時には、その牙は首筋を捉えていた。
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