またバードの花嫁騒動が起こった。
もしかしたらバードの母や叔父は、ただ楽しんでいるだけなのではないだろうか。
その度に、本気で「結婚してしまったらどうしよう」と思っている自分が情けない。
今回も手際よく起こった事件の後は、手際よく豪邸に泊めてもらえる結果となった。
一人一部屋ずつ宛がわれた部屋は、思ったよりは質素だが、恐らく家具などはそれなりに値の張るものだろう。
派手派手しいのは表だけで、屋敷の調度品やそこに住む住人は割と謙虚なのだ。
それでも落ち着かず部屋を見回していると、かなり大きめの姿見があった。
その姿見に映った、いつもとは全く違う着飾った姿は、見ようによってはどこぞの貴公子だ。
だが、タイガーの出自はそれほどいいわけでもない。
バードのように貴族でもないし、リュウのように名家の出でもない。
シンタローやサクラやクラーケンのように、現在の各王の親族でもない。
そう言った点では、キリーとは近しいかもしれない。
もっとも彼はその能力ゆえに、望むと望まぬに関わらずナンバーワンになったらしいが。
ナンバーワンになりたくてなった自分とは、やはり根本的に違うのだろう。
ぼんやりと眺めていたが、このような格好は窮屈で堪らない。
かといって借り物なので乱雑に脱ぎ捨てるわけにもいかない。
そんなことばかり考えていたら、無性に居た堪れなくなった。
この窮屈さから逃れる為、とりあえず獣姿になる。
鏡に映ったのは、見慣れた丸々とした虎。
ヒーローやムジナ達が気に入ってくれた尻尾。
アマゾネスやミィに(命の危険を感じるほど)褒められた毛皮。
シンタローには皮下脂肪が増えたのでは、と言われた。
確かにここ最近、自由人一家以外の人にご馳走になる機会が増えたかもしれない。
リュウには牙を狙われたことがある。
印鑑でも作るつもりだったのだろうか。
キリーは人型でも獣型でも好意を示してくれる。
…でも、それは他の濃いメンバーと比較した結果だろう。
サクラも人型でも獣型でもひっついてくる。
…だが、それは失った面影を追いかけている気がしてならない。
……バードは……バード…は……?
人型でも獣型でも、何も、変わらない。
太ったとか、丸いとかは言ってくるけれど。
自分のどこが気に入ったとか、どうして友人として接してくれるのかとか、一度も、聞いた事がない。
…それは…そこまでの興味はわかない…ということだろうか。
虎と言うより猫みたいな獣姿から、再び人型になる。
華美な衣装は、思ったよりも似合っていたらしく、多くの知人に褒められた。
それでも羽を震わせて振り返り、目を見開いた後の
「お?いいんじゃねぇ?」
そう言って微笑んだ顔だけが、忘れられない。
たった、それだけのこと。
でも、それだけのこと。
だから…もっと、欲しくなる。
本当のものを映すはずの鏡は、自分の見たくないものばかり映し出す。
どこにも放てない叫びが、胸にこびり付いて離れない。
今は、口元を押さえて、その吐き気に堪えるだけ。
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