星空が揺らめく。
実際に揺らいでいるのは海。
夜空の星たちが、水面に映っている。
ぼんやりとそれを眺めているクラーケンの背に、生気を感じさせない声が投げかけられる。
「…本当に…来てくれたんだ」
「……俺の部屋を血塗れにすると脅した奴が何を言う」
「嬉しいなぁ」
手厳しいクラーケンのツッコミも何のその。
海を見据えるクラーケンに見られないように、心底嬉しそうに忍は微笑んだ。
「……話とは何だ?」
「あ、うん。あのね……クーりん…泣かないでよ?」
「当然だ」
そう苦々しげに言いながらも、忍の方は振り返らない。
ずっと海を見ているが、聴覚は全てこちらに集中させていることが分かっている。
だから忍は安心して、はっきりとした声で告げた。
それは恐らく、クラーケンの望まない結末で、本当は忍だって望んでいない結末だ。
望んではいないが、もう、決めたことだった。
ずっと…ずっと前から…
「俺の中では、既に終焉のシナリオが出来ているんだ」
そう、それこそ、彼と出会う前から。
「……そうか」
だが、クラーケンは眉一つ動かさず答えた。
それを少し悲しく思いながら、それでもどこか安堵した面持ちを浮かべて忍は口を開いた。
「だから…ばいばい」
「……ああ」
それにも表情を変えなかったクラーケンは、その目に穏やかな笑みを浮かべたままの忍を捉えると
「またな」
簡単に、そう、呟いた。
「…クーりんの…意地悪…」
俯く寸前の忍の表情が泣きそうなものだと気付いたクラーケンは、また視線を海へ向ける。
「…そうだな」
忍は泣かないだろうという、不確かな確信を抱いて。
いっそのこと泣いてくれれば、どれだけ楽になるだろうか。
「俺の最期のシナリオも…出来ている」
自分勝手な言葉を口にしているという自覚はクラーケンにもあったが、忍だって同じようなもの。
半ば開き直りの言葉で、彼が何を言わんとしているか忍には分かったようだ。
「…そう……じゃあ、その前の日に…?」
「…ああ…この場所に、来い」
多分それは叶わない約束になる。
だけど…それでも…
「オッケー…待ってて。忍…絶対に、会いに行くから…」
「…ああ、待っていてやる」
今夜みたいに。
だから、絶対…
「忘れるな」
「忘れないよ」
終焉前夜に会いましょう。
その時に、本当の想いを伝えるから。
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