声を掛けたら返事(ともとれる唸り声)をしてくれるまで、機嫌は回復したらしい。

でもまだ、シーツに包まったままのバードは、目を合わせてくれない。

「ごめん」

何度も口にした言葉は、まるで独り言だった。





「ごめん」

「…うっせぇ」

だが何回目かの謝罪で、漸く意味を持った声がシーツ越しに返ってきた。

タイガーへ向けて放たれた言葉は、どことなく涙交じりだ。

「…ごめん」

「……謝るくらいなら…最初っからすんな」

「……ごめん」

勢いよく顔を出したバードは、どこか虚ろな涙の滲んだ目でタイガーを見据える。

「っていうかさ…お前…何に対して謝ってるつもりなんだ?」

「…バードが嫌がること…無理矢理した…」

「……へぇ…そうか」

それは今まで見たことのない、歪んだ笑みだった。

そして今まで聞いたことのない、冷たい声だった。

「俺への嫌がらせだったのかよ?…で?お前は俺にどうしてほしいワケ?」

「…ごめん」

「だから…謝るんじゃなくて…」

「タイガーが、したかったから」

「したかったから…って…オイ」

「それを、我慢できなくて、ごめん」

本当に苦しそうに告げる瞳は、いつものように真っ直ぐで、思わずバードは凝視してしまう。

これ以上、まるで小動物のような、素直に謝るタイガーを責めることもできない。

そんな自分の不甲斐無さも含めて、バードは苦し紛れに枕をばふばふと叩きながら叫んだ。

「くっ…っそぉおおぉぉ〜〜俺の…俺の…ファーストキス〜…」

枕を相手に、絶望に打ちひしがれている様子を見て

(やっぱり初めてだった)

なんて安心している自分は、かなり卑怯かもしれないと、タイガーは少し顔を曇らせる。

一頻り叫んで落ち着いたのか、バードはやや涙の滲んだ目のまま顔を上げ

「…ったく…何であんなこと…」

それは小さな呟きだったが、タイガーには充分聞こえる大きさだった。

「だって、バードが好きだから」

あまりにも直球すぎて、一瞬にしてバードの顔に血が昇る。

「と、とにかく!!責任…!!そう!!責任とって貰うからな!!」

「責任…?」

「げっ…い…いや、ちょっと待て!!やっぱ…」

「分かった。責任とる」

表情だけは真剣に、その足取りも軽くバードのいるベッドへ近付いていく。

「え?ちょっ…そういう意味じゃな…っっ!?」

逃げようとするのを素早く捕えて、セカンドキスまでも奪った。



これから先も、自分だけが触れるつもりで。







もっともっと翻弄したい。



あんな声は二度と聞きたくないから。





拒絶の声は、己の獣性を掻き立てるだけ。










BACK