連戦連敗。
ここまでいくと、逆に見事としか言いようがないのではなかろうか?
いつものように暇な英雄達が集まった中で、一人だけこの世の終わりみたいなオーラを出している。
だから不幸の青い鳥とか言われるんだろうなぁ…
その場の人間の思いは共通していた。
いつまでも塞ぎ込まれてもウザいと思ったのか、シンタローがやや穏やかな声を掛けた。
「大丈夫だって…そのうちきっと彼女の一人や二人…」
「うう…一人でいい…」
「あ、ああ…そうだな」
「あと“そのうち”とか“きっと”とか言うなぁ〜…」
「…す、すまない」
何を言っても逆効果らしく、余計に塞ぎ込んでしまった。
そのやり取りで、全員が彼には触れないでおくことに決定したらしい。
苦笑いで「やれやれ」と言いながらシンタローが戻ってきたのを合図に、昼間だというのに騒ぎ始めた。
シンタローのようには言えない。
だって、それは望まないことだから。
獣姿だと、大抵の人間は警戒心を抱かない。
それを利用してバードの傍に居座った。
人型だと絶対しないようなスキンシップだって、望める。
「なぁ…どうすりゃモテるんだ…?」
背を撫ぜる手に照れ臭さを感じていると、不意にそんな問い掛けをされた。
「が、がう…(そんなの、知らない…)」
そう視線で訴えると、バードの表情が険しくなる。
「ほう…しらばっくれる気か…」
このままではヒゲや尻尾を引っ張られかねないと、急いで人型に戻る。
「た、タイガー…そういうの苦手だから…」
胡乱な眼差しでタイガーを見ていたバードは
「……サクラ君!!」
「もぉ…何だよ?気安く呼びつけないでよね」
文句を言いながらも、直ぐにやってくるのはタイガー絡みの話だと気付いたからだろう。
「…タイガーは…モテモテ君だそうだね?」
「はぁ?何?今更そんな質問?」
初耳だったらしく、タイガーの目が見開かれる。
もちろん他の英雄達も、初耳だったようだ。
「獣人界の英雄は人気者だよ?」
「で、でも…それきっと子供…」
「子供だって将来の立派なレディ候補だ!!」
だからロリコンだとか言われるんだよ。
そんなツッコミはタイガーの胸にきっちりとしまわれる。
「は?子供じゃないって。女の人からだよ」
「「は?」」
「俺も何度か『紹介して〜』って言われたもん」
ま、俺のものを紹介する気なんてないけど。
高飛車な笑い声は、二人の耳には入っていなかったらしい。
「…どうしたらモテルンデスカ?」
微妙なプライドは崩れ去ったらしく、睨みつけるような表情でタイガーに問い掛ける。
「わ、分からない…」
「…独り占めする気か?」
鈍く光る瞳が怖くて、タイガーは必死に首を横に振り続けた。
バードに比べれば色恋の経験は豊富と言えるかもしれない。
だがタイガーにとっては、言い方は悪いが女性というものは「向こうが勝手にやって来る」ものなのだ。
どうすればいいかなんて想像もつかない。
…もっともこんなことをバードに言ってしまえば、酷い目に会うことは必至。
黙っておくに越したことはない。
「…くっ…こんなデブ虎がモテるのに、鳥人界一色男の俺がモテないなんて…」
「ばーか。当たり前じゃん!タイガーとお前じゃ、お・お・ち・が・い」
「……黙れ、オカマ」
「ひっどーい!サクラ、オカマじゃないもん!」
周りから「そろそろ二人を止めろ」という視線を向けられてしまい、仕方なく収拾をつけることにする。
いい方法が思いつかないまま、子供のような言い合いをする二人に近付く。
暫く迷っていたが、殴り飛ばされること覚悟で、バードを抱き寄せた。
「だ、大丈夫。タイガーがいる」
「………野郎のゴッッツイ胸じゃ、空しすぎデス」
そう呟いても、拒絶しない態度に、微かな期待を抱いてしまう。
…ごめんなさい。
『何度でも失恋すればいい』
…そう思ってしまう俺を赦して。
何度でも傷付いてくれればいい。
振り向いてくれるまで、辛抱強く、ここにいるから。
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