ばたばたと服などを鞄に詰めている様子に、スミレは思わず溜息をつく。

「旅行じゃないんでしょ?」

「そうだよ。世界を救うんだけど?」

弟が言うとうそ臭さしか感じられないが、どうも本当らしい。

樹王様に確認済みだ。

世界中を巻き込んだ戦が終わったのが9年前。

また、同じように戦が始まろうとしているらしい。

各界の英雄達(海人界除く)は、何故かすぐに仲良くなった。

それはいいのだが…

「…お友達に迷惑かけないようにね」

「うっさいなぁ…あいつらはサクラの我侭に付き合うためにいるの」

無茶苦茶な持論を胸を張って言い切られると、スミレは自分が育て方を間違えたとしか思えなかった。





「よし!準備完了!!」

「待ちなさい…そんなに荷物はいらないでしょう?」

「スミレちゃんったら分かってないね。サクラの美貌を維持する為にはこのくらいの化粧水とか服とか…」

「置いて行きなさい」

「ヤダ」

「そんな荷物…持って歩けないでしょ?」

「は?俺が持つんじゃないって。タイガーとか鳥とか虫に持たせ…」

「置いて行きなさい」

せっかくの(やっとできた)友達に、そんなことをさせるなんてとんでもない。

「相っ変わらずうるさいなぁ」

「兄さん…小さい頃、お前の為に毒薬作ろうとしたよ」

「はいはい。んじゃあ…これとこれと…」

纏めようと思えば、かなり荷物は少なくなった。

(最初からこうしてればいいのに…)

これ以上の口論は避ける為、スミレは内心で溜息をついた。

「よし。ま、ちょちょいと片付けてくるよ」

生意気だけれど、血の繋がった弟だ。

可愛くないわけがない。

「無茶をしてはいけないよ?」

「大丈夫。タイガーや下僕どもが守ってくれるもん」

「手紙が書けるようなら書くんだよ」

「そんなの書かないよ…」

「早く…帰ってくるんだよ」

「…サクラの実力ならチョロイチョロイ」

「帰ってきたら、お前の好きなお茶を淹れてあげるからね」

ここがお前の帰る場所だよ。

「……ま、楽しみにしとくよ」

くるりと向けた華奢な背中に…

「サクラ」

「何?まだ何かあんの?」

本当は心配で心配で堪らないけれど…



「行ってらっしゃい」

お前を引き止めるような足枷にはならないよ。



「…大丈夫だよ」

そう言って笑うお前は、兄さんの自慢の弟だから。







どうか、どうか、無事に帰ってきて。







英雄になれなかった兄さんを許してくれ。

お前に全て背負わせてしまう、弱い兄さんを許してくれ。





(ごめんね。サクラ)





どれだけ謝っても、この罪悪感からは逃れられないだろう。





一生。










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