腹が減っては戦はできぬ。
昔の人はうまいことを言うねぇ。
戦闘後の、重苦しい空気の中で006の腹が鳴った。
「腹が減っては戦はできぬヨ」
明るく言うと、006はいつものようにキッチンに向かった。
それに反応を返すだけの余裕が、皆に見られない。
やれやれ…俺も手伝うかね。
のぞき込んだキッチンには俯いた006がいた。
「どうした?」
「…何でもないアル」
やけに沈んだ声が返ってきた。
「何でもないって感じじゃないのは…我が輩の気のせいかね?」
いつも明るい006が凹んでいるのは、長いつき合いじゃなくともはっきり感じとれるだろう。
「…みんな疲れてるネ」
「ああ…相手が俺たちと同じサイボーグだと戦いにくいし…後味が悪いからな」
ブラックゴーストに改造された人間は俺達の後も絶えることはない。
俺達を倒す為だけに改造された人間でさえもいるのだ。
「止めなきゃならないな…」
どこか芝居じみた真剣な声で言うと
「焦りは禁物ネ」
今までの真剣な表情はどこへやら。
006はいつも通りマイペースな声で答える。
「腹が減る。取り留めのないことばかり考える。これ一番よくないネ」
そう言うと006は細い目を更に細めて笑った。
「さぁ!みんな食べるネ!」
疲れきったみんながいい匂いに顔をあげる。
「今日は特別ヨ〜豪華ネ」
腹立たしいくらい明るい006の言葉に、一部で苦笑いがもれる。
「わぁ…ほんとだ。ありがとう。006」
いつものどこか曖昧な笑みを浮かべて、009が立ち上がる。
気遣いのできる人間は必要だな。
「おいしそうだね」
009が振り返って同意を求めると、すぐさま002が
「おっ。俺が食いたいって言ってたやつじゃん」
明るい声と表情で、テーブルの上を覗き見る。
何十年生きていようが、彼の純真さはなくならなかったようだ。
自分より年上とは、俄かには信じがたい。
「そうアル。いつもはおいしいて言わない002が、珍しく気に入ってくれたみたいだからまた作ってみたネ」
「僕のリクエストは?」
いつの間にかピュンマもテーブルの所に来ていた。
彼はメンバーの中ではまだまだ若いのに、どこか落ち着きを持っている。
「もちろん作ったネ。今持ってくるアル」
嬉しそうにキッチンに向かう背に
「手伝うわ」
「手伝おう」
003と005もそう声をかけ、キッチンに向かった。
食事の準備に、みんなが動き始める。
いつもの雰囲気に、近づけたんじゃないか?
004と目が合って、思わず苦笑い。
うまい料理とみんなの笑顔。
例えそれが、仲間を安心させるためだけの薄っぺらい笑顔であったとしても…
それさえあれば、永遠に続く明日も乗り切れる。
そんな気がした。
うまい料理をこれからも頼むぜ。
名料理人。
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