日差しは暖かいのに、縁側に座る008は長いズボンに長袖のシャツを纏っていた。
008と同じように縁側に座っていたコズミ博士は、不意に口を開いた。
「ギルモア博士を…憎んでいるかね?」
「いえ…別に?」
その素っ気無いほどの008の答えに、コズミは安心したように微笑み
「親とは、子供のことを配慮し守る者のことだ」
「そう…ですね」
遥か遠い母国と両親を思い出したのか、懐かしそうに寂しそうに008は目を細めた。
「彼は、君達にとって…親なのではないかね?」
生み出しただけでなく…育て…慈しみ…
“子供達”のことを配慮し、守ろうとしている。
もちろん戦闘面では全く役に立たない、ただの人間だけど…
彼がいないと、どうなっていたのか分からない。
だから008は素直に頷いた。
「仰る通りです」
その表情には、嘘も虚勢も見られなかった。
それはあまりにも、さも当然と言わんばかりの反応で、コズミは少し意表を突かれたのか目を見開く。
しかし次の瞬間、何度も頷きながら
「解ってやってくれ…憎まないでやってくれ…」
それは、コズミ自身の懺悔のようにも聞こえた。
科学の持つ可能性に、倫理の抑止力が追いつかなかった男の友人の…
それでもその男を見捨てることが出来ない彼の、ささやかな懺悔。
それに気付いたのかは定かではないが、008は縁側から立ち上がると
「僕達は…どうあがいても博士を憎むことなんてできませんよ…」
親が子供のことを憎みきれないのと同様に、子供も親のことを憎みきれないのだから…
だから…憎むなどできない…
見た目すら人ではなくなってしまった自分の腕を、シャツ越しに何度か撫でながら
「親…ですし?」
照れくさそうに呟いた008の言葉に、コズミは泣きそうな笑顔を浮かべた。
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