それは何気ない一言から始まった。
「家族って…何?」
教会で他の大勢の子供達と、神父様に育てられたという009には、家族というものがあまり分からないようだ。
もちろん理想というものはあるが、世間一般的に家族とはどういうものか知りたいと言い出した。
「僕には分からないよ」
「あ〜俺も…気付いたら親なんていなかったしなぁ…」
「そうねぇ…何て言えばいいのかしら…兄さんはいたんだけど…」
「家族なんてもんは、あれだ…あれ…」
「自然全てが家族」
「ご飯作ってくれる人がいることネ」
「嗚呼!我らが同胞よ!悩める時に共に悩み、憎む時に共に憎もうぞ!例え一人で(略)」
「信頼できていれば、家族って呼ぶんじゃないかな?」
「わしもよく分からん…」
その後、暫く討論とも呼べないこともない討論を繰り返した結果、皆の意見はまとまった。
結論:よくわからない。
そこに在るのが当たり前で、皆そんなに意識して家族というものを見ていなかったのだ。
「まぁ…難しいものなんだね…」
どこか力なく笑う様子に、全員がどうにかして『家族』をわからせてあげたいと思った。
「じゃあこうしましょう。今から皆が家族よ?」
花のように微笑んだ003の言葉に、ギルモアが疑問を口にする。
「それは前からじゃろう?」
「そう。でもそうじゃなくて、役割を決めるの」
これは、ままごと遊びをしたことのある、女の子らしい発想だろう。
「役割?」
全く理解できなかったらしく、002や005は首を傾げている。
「なるほど。父親と母親…そんな風にかね?」
「ええ。どうかしら?」
これらの提案は、全て009の為のもので、彼が嫌だと言えばここで終わりだった。
「うん。やってみたい」
その提案が気に入ったのか、009は食いついてきた。
「じゃあ…003がお母さんじゃない?」
誰が見ても…といった感じで、唯一の女性はすぐに役割が決まった。
「あら?だったら誰が旦那さんになるの?」
その瞬間、静かに003争奪戦が始まった。
「年齢からいうと…我輩かね?」
007が得意満面で自分を指差す。
「何でそうなる」
マシンガンよりも早く、004のツッコミが入る。
「あいやぁ!じゃあワテあるか!?」
嬉しそうに額に手を当てて天を仰ぐ006。
「だから何でそうなる!?」
004の突っ込みに、009も頷きながら
「そうだよ。いくら003の実年齢がかなりいってても、一応見た目は若いんだし…」
「ちょっとそこに直りなさい」
絶対零度の声で003はそう言って、009の前の床を指差す。
「悪気があったわけではない」
005のどこか必死のフォローに、彼女は微笑んで
「なお悪いわ。それってつまり普段から無意識にそう思っていたってことでしょう?」
明らかに、その目は笑っていない。
「…で…だから、さすがに見た目が40代の人間を夫に宛がうのはひどいと思うんだ」
003のブリザードをものともせずに、009は力説をしていたようだ。
「じゃあ…おれはどうだ?若いぞ?」
002の弾んだ声に
「若けりゃいいってもんじゃないよ」
やけに冷たい目で、009が即答した。
「まず、見た目だね」
「な、なんか文句あるのかよ?」
「顔はまあいいとして…その、収入源のなさそうな顔は何!?」
「はぁ!?」
まさかそんな風に言われるなどと思っていなかった002は、いつも以上にオーバーな驚き方をした。
「家族を養うのなら、それなりの収入を期待したいんだよね。僕としては」
「はぁ…」
「だから002だと、どうあがいたってフリーターがいいところ。そんなことでは明るい家庭は望めない」
「ちょっと待て!!」
「まあ、お金が全てではないだろうけどさ、それなりの収入を望んだってばちは当たらないと思うんだ」
「……ジョー…?」
彼は一体、家族に何を求めているのだろう…?
心の中で呟いた002の声は、もしかしたら全員に共通するものだったかもしれない。
「…やけにリアルじゃな…」
つい突っ込みを入れてしまったギルモアに
「あ、ちなみにギルモア博士は年金生活の設定にするから、好きなようにして」
すかさず009の指示が飛ぶ。
「ウ…ウム」
本当にやけにリアルだった。
そんな状態で数時間が経過したころ、ぐったりとソファに座り込んだ004がぼそりと呟く。
「…一体どういう趣旨で、こんな話になったんだ…?」
「さあ、どうだったかな?あ、じゃあ父親は004でいいんじゃない?」
「さあ…っておい……待て…何だか今さらりと爆弾発言したな」
「よし。じゃあ次は脇役決めてくね〜」
「俺が父親か!?」
「文句ある?」
「あるに決まってるだろ!?」
もし本当に、こんな問題だらけの子供やら親戚やらに囲まれていると、どうしても自分ばかりが被害を被りそうだと思っている004は必死だ。
「何で?」
「…年齢が…」
実年齢と見た目の年齢にあまり差はないが…
「30歳くらいでしょ?まあいいんじゃない?ねぇ003?」
「…私は構わないけど…004に悪い気がするわね」
珍しく控えめな003。
彼女は気付いていたのかもしれない、誰がやってもまともなことにならないことに。
「…そうか…なら俺も反対する理由はない…」
彼は気付いていたのかもしれない、この計画自体がまともではないことに。
「はい決定。004なら収入源も期待できそうな顔だしね」
とてもいい笑顔の009に
(((((((((どんな顔だ)))))))))
数名の心の突っ込みは、プライバシー保護のため音声を変える。
それからまた数時間、今度は他のメンバーの役割も決まっていく。
002や009や001は子供。
007や006は親戚の伯父さん。
008や005は従兄弟。
ギルモアはおじいさん。
メインの家族以外は投げやりなのは、予測済みだ。
「はい。みんな〜自分の役割覚えたね〜じゃあ今から…」
さて早速、家族ごっこが始まろうとしたその時…
「あ、夕飯の準備していなかったわ」
時計を見て、母親…というか003が呟く。
「あいやぁ!!ついつい忘れてたね!!」
伯父さん…もとい006の声にふと我に返った全員は、言いだしっぺの009に視線を向ける。
「……じゃあ…どっか食べに行く?」
苦笑いで009は今日一番のまともな発言をした。
結局、何か得る物があったのか…誰にも分からない。
…でもまぁ…これも一つの家族の形?
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