今すぐではないけれど…

いつか、そう遠くない未来に…







「最近、博士どうしたのかしら?」

001のミルクを人肌にまで冷ましながら003が呟いた。

「そう言われてみれば…ここ最近は書斎に隠ったままだね」

その言葉に009にも思い当たる節があるようだ。

二人は言葉と視線を交わし、ギルモアがいるであろう書斎に目を向けた。







今はいい。

今はまだわしが生きておる。

いつか、あと何十年…

いや、早ければあと数年かすれば…わしは…

だから今…

わしの知りうる限りの、君たちの情報をまとめておこう。

あとは001が何とかしてくれるじゃろう。

赤ん坊の寝顔が思い浮かび、思わず笑みがこぼれる。

傍から見たら赤ん坊に全てを委ねる老人などおかしいものなのだろうが…

あの子には頼ってしまいたくなる雰囲気がある。

それに…それが普通なのかもしれない。

廻り続ける命のサイクルの中で、老人から赤ん坊へ…意志が伝えられていくのだろう。

それが……普通なのかもしれない。





ふいに「皆はわしが死んだら泣くのだろうか」という考えが頭をよぎった。

しかしすぐに「当たり前だ」と分かる。

優しい彼らは、死というものにひどく敏感なのだから。



死にたくない。

死にたくはないが、永遠を生きるのはこの老い耄れにはちときつい。

人にはそのような生を強要しておきながら、随分と都合のいいことだが…

……確かに研究を続けてもみたい。

もっともっと、知識を取り入れたい。

けれども彼らはそんなわしを許さないだろう。

わしも…わし自身を赦せなくなるだろう。




今すぐではないけれど…

いつか、そう遠くない未来に…







徹夜続きの老人の目に、朝日は眩しすぎた。

眩しさから逃れるように、ゆっくりと目を閉じながらギルモアは呟いた。





「皆…愛しておるよ」





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