「どうして笑っていられるの?」

問い掛けが、耳を素通りした。

「あんたの手だって血にまみれているくせに」

無邪気な笑顔を浮かべる彼に、これは夢だと気付いた。

彼は私に、そんな顔は見せないから。

でも…




「――っっ!!」

嫌な汗をかいていた。

シャツが肌に張り付くのが、不快で仕方がない。

少しでも肌とシャツが触れる面積を減らしたくて、シャツを摘んでは離す。

暫く無心でそれを繰り返したが、次第に肌寒さを感じ始めた。

手を止め、眉を顰める。

それでも、着替えるほどの気力もない。

言われた言葉は、どこか現実感を伴って、胸を抉ったのだ。







自分に暗示をかける。

ずっとずっとかけ続ける。

あの時…

血にまみれたあの時…

炎と煙にむせたあの時…



あの時受けた傷の痛みは、もう、ない。

傷跡すら残っていないかもしれない。

だから…この痛みも、もう、ない。





だから笑っていられるんだよ?



うまく笑えている自信はないのだけれど。





だから気のせいだ。

そう…気のせいだ…







今は、もう…









04.痛くない





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