「どうして笑っていられるの?」
問い掛けが、耳を素通りした。
「あんたの手だって血にまみれているくせに」
無邪気な笑顔を浮かべる彼に、これは夢だと気付いた。
彼は私に、そんな顔は見せないから。
でも…
「――っっ!!」
嫌な汗をかいていた。
シャツが肌に張り付くのが、不快で仕方がない。
少しでも肌とシャツが触れる面積を減らしたくて、シャツを摘んでは離す。
暫く無心でそれを繰り返したが、次第に肌寒さを感じ始めた。
手を止め、眉を顰める。
それでも、着替えるほどの気力もない。
言われた言葉は、どこか現実感を伴って、胸を抉ったのだ。
自分に暗示をかける。
ずっとずっとかけ続ける。
あの時…
血にまみれたあの時…
炎と煙にむせたあの時…
あの時受けた傷の痛みは、もう、ない。
傷跡すら残っていないかもしれない。
だから…この痛みも、もう、ない。
だから笑っていられるんだよ?
うまく笑えている自信はないのだけれど。
だから気のせいだ。
そう…気のせいだ…
今は、もう…