※『放火魔』の続き…みたいな…感じです。



「アルフォンス君から聞いたよ…」

「な、何を…?」

「君は私のことを牛乳より『好き』だと言ったそうだね?」

「…何で『好き』だけ強調するんだよ…」

「言ったそうだね?」

「……牛乳『よりは』好きって言ったかもな…」

「充分だ」

「………俺…食い物の中で牛乳が一番嫌いなんだぞ」

「調査済みだ」

何だか物騒なことを言われた気がするが気にしない。

「…………それより嫌いなものなんて…滅多にないぞ?」

「そうだろうね」

「……………それより好きなだけで、あんま好きじゃないかもしれないだろ…?」

「ああ」

「………………なのに…」

エドの握り締めた拳は、怒りの余りぶるぶる震えていた。

「何でそんなにニヤケてんだよっっ!!」

気持ち悪ぃんだよ!!

「気のせいだ」

あっさり答えるが、うそ臭さ抜群だ。

余りにもニヤニヤと笑っているものだから、何だか身の危険のようなものを感じたエドはこっそりと踵を返す。

だが、そんなものお見通しだったのか、まるで今までの話の続きだとでも言った感じでロイは口を開いた。

「そうだな…大総統閣下と比べると私は好きかい?」

「はぁ!?なんだよ…その比較対照…」

「いいから…答えて?大総統よりは?」

「………嫌い」

「(そうか…だがもうすぐその地位は私のものさ…!)ヒューズよりは?」

「嫌い」

「(ヒューズに負けたか…)ヒューズの家族自慢よりは?」

「……嫌い」

「(あれより私は劣るのか…)ハボックよりは?」

「嫌い」

「(ハボック後でボコる)守衛よりは?」

「……嫌い」

「(どうやってクビにしよう)機械鎧よりは?」

「…嫌い」

「(体の一部だしな…)雨よりは?」

「………嫌い」

「(君を痛みに引き摺り込む雨にも負けたか…)牛乳よりは?」

「…………好き…」

それまでテンポよく答えていたエドが渋々といった風に答えると、にぱっと音が出そうなくらいロイは笑った。

「だから何笑ってんだよ!?」

普段とのギャップを楽しめない程に追い込まれたエドは、何度目かの叫びを口にした。

「いやいや…君の可憐な口から『好き』という単語が零れ落ちる瞬間を目の当たりにしたんだ…仕方ないだろう?」

エドが旅先で出会った腕のいい精神科医のことを思い出していると

「鋼の…『好き』だよ」

「え?」

「『嫌い』と言われるより『好き』といわれる方がいいだろう?どうだい?」

期待に満ちた眼差しを、胡散臭げにエドは見てから

「確かに…そうかもな…」

「だろう?『好き』だよ…鋼の」

「でもキモい」

「はうっ!!!!」

女の人ならイチコロであろう笑顔でロイが囁くが、エドは一言で切り捨てる。

かなりダメージがでかかったようで、顔の造詣がやや崩れかけていた。

「だってさ〜それ誰にでも言ってるんだろ?それに…俺みたいなのに言うのは間違ってるし」

「そんなことはない!!断じてないぞ!!」

必死に否定する様子に、少しだけ冷静さを取り戻したエドは、一応その言葉を信じてみることにした。

「ふ〜ん…まぁ、そうだよな…女の人にはもっと気の利いたこと言うだろうし…」

「君の瞳は透き通っていて、宝石でさえもくすんで見えてしまう。それはきっと私が君に恋をしているから…とか?」

「クッサ〜!そうそう!そんな感じ!!」

爆笑するエドに、ロイは溜息をついて

「君は私のキャラを誤解しているようだね」

「え!?違うのか!?」

「違う。確かに紳士だとは思うが…」

「あ〜アルと合流しなきゃな…」

何事もなかったようにエドが歩き出そうとすると

「待ちたまえ」

がしっと腕を掴まれ思い切り溜息をつく。

「はいはい。紳士ですねぇ〜」

紳士なら決して入れないような力強さで引き戻すが、掴んだ腕は機械鎧だったので相手には伝わらない。

もどかしく思いながらも、ロイは少しだけ力を緩めて、不意に訊ねた。

「それでも…嫌われてはいないんだろう?」

「は?」

思わず聞き返したエドから視線を逸らし

「いや…嫌われていないならいいんだ…」

答えを言わせないように、その腕を解放したロイは自嘲気味に笑った。

訳の分からないロイの行動など日常茶飯事なので、首をひねっただけでエドは何も気にせず部屋を出て行く。

その後姿をずっと目で追っていたロイは、先程エドの腕を掴んだ掌を握ったり開いたりしながら、また自嘲を浮かべた。





でもそれは『好き』とは違う。







だから男はまだ…









09.踏み出せない





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