大佐が俺の為だけに、休暇をとってくれたらしい。
それに気付いたのは、もっとずっと後だけど…
「どこに行きたい?」
「別に…」
ただ、ふらりとこの町に立ち寄っただけだから、思いついたように大佐の自宅に顔を出した。
大佐の方も、気まぐれで休暇をとったようなものだから、何の予定も無いようだ。
ただ何となく、町へ出てみた。
結局、落ち着いたのは、川原の土手。
人通りが少ないことを、俺もこいつも知っている。
「どこに行きたい?」
別に、どこでもいい。
「じゃあ…ここから一番遠いところ…」
出来ればゆっくりと過ごしたい。
「…頼むから、今日中に帰って来れるところを選んでくれ…」
言葉の意味は、ストレートに受け取られたようだ。
本当は…言葉そのままの意味で、言ったのではなかったけれど。
「どこに行きたい?」
あんたが無理矢理連れ出したんだから、あんたが決めてくれよ…
「あ〜もう…あんたの行きたいところでいいや」
投げやりに答えると、傍らの影が近付いてきた。
不審に思って横を見ると同時に、ぬくもりに包まれる。
驚いて声も出ないまま、大人しくしていると
「私の行きたいところはここだよ?」
掴まれた肩に、少しだけ力が加わる。
頬同士が触れ合い、そこから温もりが移ってきた。
耳元に囁かれた声に、顔が熱くなってきた。
絶対、この温度は伝わってしまっているだろう。
「…移動距離…すっげー短い…」
なんだ…こんな所に行きたいのか。
だったらもっと、早く言ってくれれば良かったのに。
まぁ…言われなくても、ここにいたけど。
「…今日はね」
その声に含まれた弱音に、少し胸を衝かれた。
“いつもは、とても遠い場所だから。”
大人のずるい苦笑は、それでも子供の自分には辛そうにしか見えなかった。
俺の一番行きたいところ…
「ああ…もう日が沈んできたね…」
ここから一番遠いところ…
「そうだな」
だから…
「じゃあ…帰ろうか…」
それは…
「…そうだな…」
あんたの側。
近いようで、遠いから…
気が付けば俺は、ずっと、そこを目指して歩いている。
目指す場所が、ものすごく遠いから…
目指す場所が、そこしかないから…
俺は、いつまでたっても…