ソファに向かい合って座る二人は、いつになく緊張していた。
エドは温もりの戻った右手を、隠すように左手を重ねている。
もちろん表情には出さないが、ロイはその右手をどこか憎らしいとさえ思っていた。
つまり、これは…
「離れていくんだね…」
ズボンで隠れて見えないけれど、その左足も元に戻っているのだろう。
「ああ…もう…目的も果たしたし…」
「そうか…」
今更、愛を告げても、身軽になった鳥は飛んでいくだけだ。
「話はそれだけかね?」
ならばせめて、愛しすぎて再び籠の中に閉じ込めてしまう前に…
ここからとっとと追い出そう。
「あんたさ…俺のこと好きだって言ったよな?」
突然の会話の転換に、少々驚きはしたもののロイは頷く。
「……ああ…何度もね」
本当に数え切れないくらい、この男は少年に愛を囁いたのだろう。
どこか自嘲気味に笑う。
「俺もアルももとに戻ったし…」
しかし、伝えたいことがあるのか、少年はそんな表情は見ていなかった。
「ちゃっかりアルの奴、ウィンリィと付き合ってたし…」
「ほう」
「その…あんたがまだ…俺のこと…」
やや上目遣いで見遣ってくる視線を、愛しいと感じながら、ロイは心から告げた。
「…好きだよ」
エドは素早く視線を落とすと、恥ずかしさを誤魔化すように頭を掻く。
「だったら…その…付き合う…?ってのもおかしいかな…男同士だし…」
どう伝えようか迷っているエドの言いたいことを、ロイは察していた。
「まぁ…その…元に戻ったし、あんたの気持ちくらいなら受け止められ…」
エドは全てを言えなかった。
優しい笑顔を浮かべたロイが、エドの唇を人差し指で押さえていたから。
「…鋼の」
少し悲しそうな笑顔で、ロイは言った。
「あの頃の私はどうかしていたんだ」
本当は今でも、どうかしていると思うが。
「何を…」
「自分のことばかり考えて、君の事を考えていなかった…」
少し冷静になれば、分かること。
それを告げるのは、やはり年長者の役割だろう。
「だから…」
驚きに目を見開くエドが口を開かないだろうと判断したロイは、名残惜しいと思いつつもエドの唇から指を離した。
「確かに君が私の気持ちを受け入れてくれたとして…」
少しだけ、ほんの少しだけ、嬉しそうに笑った後。
「私は君を幸せにはできない」
真剣な表情でロイは囁いた。
「あんたらしくないな…自信がないってのか?」
震えそうになる声を、エドは意地だけで抑える。
「…そう…だね。そう……自信がない」
どこかで感じていた、自分達の関係の限界。
少年よりも少し、大人だった男が先に気付いただけだ。
「一緒に幸せになろうとか…考えないわけ?」
エドの言葉に、ロイは何も言わずただ悲しげに笑むだけ。
考えなかったわけではないよ。
その表情は、エドの問いを否定はしなかった。
そして、男は囁くように告げた。
「君は幸せになりなさい」
納得はしていないが、全てを理解したようにエドは微笑む。
そして、いつものように振り返らずに部屋を出て行った。
二人は気付いていた。
エドはもう、この部屋に訪れない。
ロイはもう、あの少年に会えない。
そして、それでも…