連れて来られたそこは、トンネルみたいになっている細い道。

「通ったことは?」

「あるわけなか…こげんとこ…」

通学でこういう細い道を通らない猪里は、訝しいのを隠しもせずに虎鉄を見る。

「そうか」

その答えを予測していたのか、虎鉄は安心したように微笑んだ。



別に日差しのきつい日でもないのに、避暑のようにそのトンネルの下に入ったまま。

当然、通り抜けるのだろうと思っていた猪里を制した時のまま、虎鉄は手を握っていた。

時々通りかかる自転車に乗った人間に、不審そうに見られてもお構いなし。

本気で抵抗できない猪里も、いまや諦めきっている。

「そろそろ…か」

ずっと黙っていた虎鉄が、急に口を開いたかと思うと、遠くから何かか近付いてくる音がした。

聞き覚えのあるその音に首を傾げている猪里に微笑みかけるだけで、虎鉄は何も言わない。

すると、いきなり電車がもの凄い速さで走り抜けた。

自分の頭の上を。

どうやら電車の線路の下を通り抜けられる道だったようだ。

よく見ると微かな隙間があり、そこから枕木やレールや普段は見られない電車の下側が見える。

とは言っても、かなりの速度であるため、細かい部分まで見れるはずはないが。

「すご…」

ちょっと…怖いかも。

上を見上げてそう思っていると、急に虎鉄に肩を抱き寄せられた。

「なん…?」

「怖いKa?」

5cm程上にある虎鉄の目を見上げると、余裕の表情だったのが少し悔しくて、まだ通り過ぎない電車を見上げながら

「…怖くなか」

そう答えると虎鉄が吹き出したのが、密着した肌から伝わってきた。

むっとして電車から虎鉄に視線を移した猪里の目には、いつものような飄々とした笑みしか映らなかった。

「…何?文句あるん…?」

虎鉄に本音を見透かされた悔しさからか、唇を尖らしてささやかな抵抗をしてみる。

離れようとする猪里を、少し強引に引き寄せた虎鉄はまだ笑っていた。

「いや別に何でもないZe〜?」

じゃあ、笑うな。

如実に訴える目に苦笑した虎鉄は、もう通り過ぎてしまった電車を追うように上を見上げた。

「でも…」

その時漸く、電車が通り過ぎていたことに気付いた猪里の耳は、虎鉄の声だけに集中していた。

「俺は怖い」

「え?」

「もう少し…こうしていていいKa?」

抱き寄せられた肩に優しく力が加わった。

それを跳ね除ける理由もなく、猪里は心持ち虎鉄に体を寄せる。



「…しょうがなか…よかよ」



そう言いながら、ちょっとだけ…

ほんのちょっとだけ、虎鉄の肩に頭を預けた。

虎鉄の優しい嘘にも、ちょっとだけ…




本当は…

悔しいけど…安心してた。







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