遠目からでも、累々と横たわる死体は見えた。
何を信じ何を望んだのか、ある者はその手に旗を握り締め、ある者は指物を背負ったままだ。
名すら残せないのに、大切な者だけは遺していく者達。
「憐れな…」
そう呟いた半蔵は、不意に足元の熱に気付く。
いつの間にか炎上している天守の屋根に上っていたのだ。
敵の総大将を追って、絢爛豪華な天守へ登ったところまでは覚えていた。
そこで秀頼を討ち取ったかと言うと…
(まだ…か…?)
何故か最上階からの記憶が酷く曖昧だった。
天守を彩る金と、赤の対比を見た気もするのだが。
その赤が、炎なのか、血なのか、は分からない。
だが、本当は半蔵にとってそんなことはどうでもよかった。
彼が本当に追いかけてきたのは、秀頼ではなかったのだから。
秀頼ではないが“誰か”に会ったような気もしていたが、これだけの炎の中で探し人はここにはいないと半蔵は判断した。
このままここにいては自らも危険だと、すぐに最善の策を練り行動に移す。
損傷の少ない部分を駆け抜け、火の周りの遅い場所を目指して逃れていった。
柄にもなく、半蔵は思っていた。
(日の光は相応しくないが、火の光は相応しいかもしれぬ)
それは、いつの間にか抱いていた激情に、よく、似ていたから。
「さて…」
先程から瞼の裏に、何の赤かは分からないが、その色がちらついて離れない。
「もののふは…」
いつの間にか“誰か”のせいで赤く染まりきった刃先を一瞥した後
「何処だ?」
どこか虚ろな目をしたまま、最後の忍は闇へと消えた。
最後のもののふを、求めて。
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