ただ、闇雲に槍を振るう。

それだけで面白いほどあっさりと、人は吹き飛ばされて倒れていく。

まるで夢の中のように現実感がない、朧の世界。



見るものも聞くものも触れるものも、人を斬る重さも。

自らの存在も目の前の存在も今までの事も、己の信念も。



ただ…痛みと“会いたさ”だけが、現。







誰にも止められぬ勢いで肉薄してきた幸村に、さすがに家康の顔が青ざめる。

今は亡き昌幸の亡霊でも見た思いかもしれない。

「は、半蔵!!半蔵はどうした!?」

本陣へ幸村を近付けないように、事前に半蔵達を配置しておいた家康が、慌てて声を荒げると

「ここに…」

いつもよりは少し遅いが、まるで今までそこに控えていたかのように半蔵が現れた。

「おお!真田のが来てしまったぞ!?」

「迂闊…取り逃してござります」

幸村が半蔵達の予測していた進路とは違った道を通って来たので、無意識に半蔵達を出し抜く形になっていたらしい。

(…よもや…真正面から…)

その為、待ち伏せをしていた半蔵達は、本陣に戻るのが遅れてしまった。

とはいっても急を要することだったので、今のところ戻ってこれたのは半蔵だけのようだ。

素早く幸村の周りを探るが、大阪方の兵士一人…それこそあの女忍でさえもいない。

(…武士一人でここまで来た…か…)

槍に縋るようにしてようやく立っていられる、といった風体の幸村を半蔵は見つめる。

(さすが…と言うべきか…)

「…お主にしては珍しいことを…」

一瞬だけ、わざとではないかといった眼差しを向けた家康だが、すぐに考えを改めたらしく

「とにかく…あやつをどうにかせい!!」

しかし半蔵は静かに答えた。

「…その必要はございませぬ…」

「何…?」

ゆっくりと立ち上がった半蔵は、辺りを睥睨している幸村に近付いていった。











表門