狭い海峡しか挟んでいない国は、ごく自然な流れで戦を巻き起こした。

それは智将を擁する国に、鬼が島が喧嘩を吹っかけたとしか思えないもの。

ともすると、それすらも智将の策の内だったのではないかと思われるほど、戦はすぐに終わった。

犠牲は数え切れないほどに。





気配を感じさせない男は、闇の奥から微かに聞こえてくる呼吸音に独り言のように呟いた。

「鬼も存外あっけない…」

「けっ…悪趣味なこって…」

意識ははっきりしているらしく、己の動きを制限している鎖をわざと鳴らして、嫌味を言い放つ。

しかし元就は、その言葉に反応を返さず、ただ元親を見据えていた。

捕らわれたこの状況から、元親は此度の戦の結末を知る。

「俺らは…負けたんだな…」

「そうだ」

「俺の…兵達は…」

「一人も残っていないが?」

「────なっっ!!」

確か元親の記憶が途切れる瞬間までには、多くの家臣が残っていたはずだ。

それが全滅ということは…

「まさか…」

「梃子摺ったので火を放った」

「…んで……なんでだよ!?」

「逆らうものは排す。それだけだ」

淡々と当然の如く言い放つ彼を、元親はそういう人間だと諦めることにしたらしい。

ただ、どうしても遣り切れない思いで、涼しい顔をした元就を睨み付ける。

「安心しろ。お前は生かしておく」

鬼の隻眼に射抜かれても、元就は全く動じなかった。

それどころか、薄っすらと笑みさえ浮かべているようにも見える。

「…てめぇ…」

そう呟いたきり黙りこんだ元親の顔は、憎しみと形容するに相応しい表情だった。

だがその目には、侮蔑とも憐憫とも形容できる複雑な色を滲ませていた。







大丈夫、知っているから。

「……泣くな」

心優しいお前を知っているから。

「泣くな、元親」

戦を厭っていた幼い頃のお前を知っているから。



「お前は、ここで、大人しくしていればいい」



もう、誰にも、傷付けさせない。





お前が日輪のもとで笑っていられるよう…







この手で戦を終わらせてみせるから。