「…ぁ…んっ…」

「元就…平気か……?」

「へ、いき…だっ…あ…っっ!!」

「…くっ」

「もっ…と…」

「へ?」

「もっと…っっ!!」

「元就!?」

「いいっ…から…!!」

「……もと、な、り…?」







情事の後は二人とも無口になって、朝まで一言も口をきかないのが常だった。

どこかぐったりとした元就の身体を抱き込んだ元親は、腕に乗せた元就の頭をじっと見つめる。

いつになく積極的に求めてきた元就に、違和感ばかり覚えた。

「何で…急にあんなこと…?」

話しかけてきた元親に驚いたのか、きょとんとした表情を向ける。

「あんなこと?」

どうせ宵闇で見えないと思っているのか、その白い面には感情が次々に浮かんでいた。

ただし、元親は夜目がきく。

その表情はつぶさに目に入り、情けないくらい元親の感情を騒がせる。

漸く元親が示した意味に気付いたのか、自嘲を浮かべ

「…別に…?」

大した理由はない、とだけ呟くと、甘えるように元親の胸に額を押し付ける。

「ただ…」

先程まで乱れていた人物と同じだとは思えないほど、あっさりと答える。



「何も遺せなくて悪いな…と…」



元親は自分の想いが、彼をどれだけ追い詰めていたか、この時はっきりと分かってしまった。

「…ごめん」

「謝るな…」

「好きになって、悪ぃ」

「……それは…」

情けない表情を取り繕いもしない元就は、そう言って黙り込んだ後、囁くように告げた。

「お互い様であろう?」

「……ん」

どんな表情がこの場に相応しいか分からない元親は、感じたままに微笑んだ。

(…その顔は…)

それなりに闇に目が慣れてきた元就にも、相手の表情が見え始めている。

「反則だ…」

元就は元親の笑顔が一番好きなのだ。

そして元親は、そんな元就の滅多に見せない照れた表情を愛しく思っている。

「なぁ、元就」

「…何だ…?」



「二人の想いだけ、遺そう?」



多分、深く考えていないであろう元親の提案に、元就は苦笑して抱きついた。

同意を示す為に。







どうせ、形として遺せないのなら。

どうせ、何も残せないのなら。



今を、二人で、生き抜けばいい。