中四国の同盟について、利益があるのはどちらかを、元就は真剣に考える事態に陥った。
やってきた四国の使者とやらが、実は当主本人だったという計算外のことに、元就の神経はささくれ立っている。
それでも話しているうちに、長曾我部の人となりなのか、徐々に苛立ちも消えて冷静に考えられるようになった。
すぐに答えが欲しいと言ってきた目の前の男を見ながら、微かな緊張と共に元就は思考を巡らす。
長曾我部は安芸を、本州への足がかり程度にしか思っていないだろう。
それか、中央に攻め入る際に背後を突かれない為の保険。
どちらにせよ目の上のタンコブを、己の兵を失わないようにして何とかしたいらしい。
毛利としては、日に日に増していく中央勢力に対抗するつもりはない。
ただ、無条件に中央に屈することは、毛利を絶やすに等しい。
ならば同盟して戦力を増やしておいた方が、いざ戦になった時に安心ではある。
それに最終的には安芸と毛利を守る為、長曾我部を切り捨てることも可能だ。
そんな不穏なことを元就が考えているとは分からないらしく、やけに生真面目な様子で鬼が告げた。
「信じろよ。俺を」
長曾我部としてではなく、己を信じろ。
「…家臣にも相談せねばならぬ。悪いが返事は文でも構わぬか?」
内心息を呑んだ元就だが、すぐにそう言って返事を先延ばしにしようと画策する。
ほぼ己の独断で毛利を取り仕切れる彼には、家臣に相談する気など全く無い。
せいぜい子供達に、皆への発表の前に告げる程度。
だが、その真っ直ぐな彼が落胆する様子を、目の前で見たくなかったのかもしれない。
「……いいぜ」
彼も乗り気で無い元就に気付いたのだろう。
少しだけ残念そうに、微笑んだ。
あの日あの男が何の策略でもなく、純粋に仲間を求めていることに気付いていながら、その手を取らなかった。
らしくないことだが、後悔している。
今更、この血の通わない男の手を取って、何になるのだろう。
「長曾我部…」
こんな時代でなければ、と、彼を知ってから幾度思ったことだろう。
「信じるとは…何だ?」
彼の言葉は己には理解できないことばかりだった。
「我は…」
それでも…
「お前を…」
それだからこそ…
「信じたかったやもしれぬ」
少しだけ残念そうに、微笑んだ。
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