捏造毛利家。
子供達の年齢はだいたい
隆元→12〜14・可愛→11〜13・元春→9〜11・隆景→7〜10 あたりをイメージ…
全部、親就前提。
ちかちゃんが毛利家に受け入れられていくまで…みたいな?
読んでみようと思う方はスクロールプリーズ。
最初は酷く怖い人に見えた。
でも何度か会う内に、怖くなくなっていった。
父親とは全く正反対の性格は、むしろ理想の男性像かもしれない。
しゃがれた声も、子供みたいな笑みも、大きな体も、豪快な喋り方も、一つしか無い目も…
その人を形作るものなら、何の問題がある?
ただ…一つだけ…
私達に出来なかったことを、いとも容易くやってのけたことだけが…許せない。
然程遠くない実家へ、可愛は夫となった隆家と共にやって来た。
例年よりも早く雪が降ってきてしまったため、足止めをくらってしまった。
もっとも帰ろうと思えば帰れないことも無いのだが、久々の実家ということもあってか長居したい。
それは隆家も承知しているようで、無理に帰ろうとはせず、元就の許す限り滞在しようと思っているらしい。
今日も早起きをしたかと思うと、降り積もった雪に飛び込んでいく可愛に隆家は苦笑する。
(かわいいなぁ…)
そう思って眺めているだけの隆家は、ふと心配になって上掛を片手に庭に下りていく。
「それでは冷えてしまうよ?」
「大丈夫ですわ!このくらいへっちゃらです!!」
隆家の持ってきた上掛を素直に羽織ると、再び雪に手を伸ばし、雪達磨やら雪兎を作っている。
2つほど作って可愛が手を休めた瞬間、そっとその手を握った。
「でも…こんなに冷たくな…」
「隆家様の手が暖かいだけです」
はっきりと言い切った彼女に、隆家はそれ以上言えなくなってしまった。
すっかり尻に敷かれているようだ。
「そうか…私はこれから義父上のところへ行ってくるけど…体を冷やしすぎないようにね」
己の押しの弱さを嘆きながら、名残惜しげにその場を去った。
しかし流石に限界はあるもので、可愛の手が雪に触れるのを躊躇うほどかじかんできた頃
「お?んだぁ?真っ赤じゃねぇか」
可愛の頭上、かなり高い位置から声が降ってきた。
驚いて見上げると、大分見慣れてきた鬼が居た。
恐らく彼もこの雪で、海を渡るに渡れなくなったのだろう。
(道理で父上の機嫌がいいわけね…)
内心、ここ数日の父の浮かれ具合が気にはなっていたのだが、漸くその原因が分かった。
子供としては、自分達の里帰りを喜んでほしかったのだが。
「霜焼けになったら困るだろうが?」
相手の視線を辿ると、指先まで真っ赤になった小さな己の手に行き着く。
「ほれ、手ぇ貸しな」
そう言うと、可愛の返事も待たずにしゃがみ込み、ごつごつした大きな掌で包み込んだ。
「ちっせぇ手だなぁ…」
父よりも大きな掌から伝わる温かさに、驚きの表情を浮かべていた可愛だが安心したのか笑みを浮かべる。
同じように微笑む元親の長い指だとか意外と形のいい爪だとか、物珍しげにつぶさに観察していた可愛は、急に不思議に思った。
確か父はこの男は海の男だと言っていなかっただろうか。
しかし、それにしては肌の色が白い気がする。
聞いては失礼かとも思いつつ、目の前の男は何を聞いても許してくれそうな雰囲気を纏っていた。
「…海賊だと伺いましたが?」
「ん?おう!今度何か宝でも持ってきてやる」
まるでガキ大将のように言い切った男は、見事な体躯と強面を有している。
「ありがとうございます」
その落差がおかしくて、クスクスと笑う可愛が、何を笑っているか見当が付いているのだろう。
元親はそれに苦笑しつつ、小さな掌を撫で擦ってやっていた。
結局、肌の色については聞けなかったが、彼女は「日に焼けにくい人もいる」と結論付けた。
現に己の父親とて、あまり日に焼けていないのだから。
暫くそのままの状態で、他愛の無い会話をしていたら、雪に負けないほどの冷たい声が降ってきた。
「人の娘に何をしている?」
恐る恐る振り返ると、やはり予測していた通りの人物が采配を構えていた。
「も、元就…」
「滅びよ!!」
目にも止まらぬ早業で、元就の采配が振るわれる。
殺さないように加減はしているようだが、痛いには痛い。
「この痴れ者めが!!やはり貴様に客間を与えたのは間違いだった!!」
「…お前が部屋に入れてくれねぇから、お前の手下が案内してくれたんだって…」
「誰だ!斬り捨てる!!」
「待て待て!!悪いのは俺だろ!?」
「そうだ…貴様が悪い!!庭伝いに侵入した貴様が悪い!!」
ヒステリックなまでに叫ぶと、もう一発采配を振り下ろす。
「大丈夫だったか?」
心配そうに訊ねたのは、痛みに頭を抱えている元親にではなく、自分の娘にだった。
「…?…はい…?」
問題は何も無い自分に尋ねる父に首を傾げながら、可愛は素直に頷く。
娘に微かに笑みを向けた後、急に元親へ鋭い視線を投げかけると
「全く…油断も隙も無いな…この変態が…」
「へんた…っっ!?ちょ、それは聞き捨てならねぇ!!」
流石にそれは言い過ぎたかと、ちょっと反省した元就に元親は大声でのたまった。
「俺が変態になるのはお前に対してだけだ!!」
「救いようの無い頭よ!!」
先程よりも遠慮の無い、素早い動きで采配が振るわれた。
痴話喧嘩とからかうには、些か行き過ぎな攻防戦を前に、不安そうな隆家が可愛に近付いていく。
「何があったんだい?」
先程まで温もりに包まれていた手を、己で温めながらの可愛の視線は、どこかうっとりしているようでもある。
「どうかしたの…?」
その視線の行き着く先には、実戦さながらの攻防戦において、色々な意味で明らかに不利な男がいた。
「はっ!!まままままままままさか長曾我部殿に惚れてしまったとか!?」
そう言って、見ている方が憐れに思うほど隆家は取り乱す。
いつもは冷静な夫の困惑振りに、微笑んだ可愛はそれとは正反対の穏やかな声で告げる。
「鬼も…温かいのですね」
「え?」
意味が分からずきょとんとする隆家の手をそっと握り締めると
「ほら。もう温まっております」
確かに先程までは触れる雪とそれほど差のなかった手が、子供らしい体温にまで戻っている。
「うん…」
同意を示した隆家は、少しだけ鬼に視線を向けた後、ちょっと悔しそうな表情で呟いた。
「温かいね」
「今度は私が隆家様を暖めます」
そう言うともう片方の手も握り締める。
小さな掌では隆家の手を覆うことは出来ないが、温もりは確かに伝わってくる。
「ありがとう」
思わず口をついて出た言葉に、可愛は擽ったそうに微笑んだ。
手は繋がったままで部屋に入れば、いつの間にか逆に隆家が可愛の手を包み込んでいた。
「あ、そうだ」
「何か…?」
「義父上がお土産を沢山下さったよ」
久々の里帰りだから、ってね。
「まあ…」
「元気な可愛の顔を見れたと、義父上もお喜びだ」
にっこり笑う隆家に、可愛も嬉しそうに微笑んだ。
「あと長曾我部殿からも、お土産を頂いたよ」
「あら…早速ですか?」
「え?」
「長曾我部殿が、宝物を下さるそうですよ?」
悪戯っぽい目の可愛の言葉に、一瞬だけ驚いたように目を見開いた隆家だが、すぐにその顔に笑みが広がる。
「それは楽しみだね」
本気で金銀財宝を持って来るとは思えないが、他愛の無い約束でこんなにも可愛の表情が明るい。
(…頑張ろう)
己の父を目標とし、義父を目標としてきた彼に、また新たな目標ができたらしい。
暫くして障子を開け放てば、満面の笑みの元親に手を温めさせている、満更でもなさそうな元就が目撃できる。
だが、この夫婦はお互いの手を握り締めて、微笑みあっているだろう。
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