捏造毛利家。
子供達の年齢はだいたい
  隆元→12〜14・可愛→11〜13・元春→9〜11・隆景→7〜10 あたりをイメージ…
全部、親就前提。
ちかちゃんが毛利家に受け入れられていくまで…みたいな?

読んでみようと思う方はスクロールプリーズ。










どことなくだが、この日がいつか来ると元親は予感していた。

長男、長女(実際は次女らしい)、次男と続いてきたら、残すところは三男だけだ。

いくらなんでも生まれて数年と経っていない子供に、元就とのことをとやかく言われるわけはない。

せいぜい、思い切り嫌われて泣かれる程度だろう。

だが、その考えが甘かったのだと、元親は今現在まさに痛感している最中だ。





いつもの案内役の男が、ちょっと困った顔で

「長曾我部殿にお会いしたいと言う方がいるのですが…」

などと非常に歯切れ悪く言ってきたので、不審に思いながらも頷いた。

そして通された部屋には、ちょこんと小さな人影が。

よくよく見ると、元就に似ている顔立ちだったことで、元親は直感的に気付いてしまった。

(やべぇ…三男だ…)

兄弟の中でも最も元就譲りの才を持つと言われる隆景を前に、元親の背を冷たいものが伝う。

一応これでも戦国を生き抜いてきた風雲児だ。

油断なく視線だけで周囲を見渡し、己に害を成すものがないか探る。

だがそんな元親の耳には、そんなことどうでもいいと言わんばかりの淡々とした声が飛び込んだ。

「どうぞ」

子供の目の前に用意された円座と、その子供の無表情を見比べた後、素直にそこに座る。

端から足を崩して座る男に、微かに不快げな表情を向けた子供は、元親が完全に座ってから口を開いた。

「最初に言っておきます。私は何度も言うことが嫌いです」

「はぁ…?」

「よく聞いて下さい。長曾我部殿」

そんなこと言われなくても、殺風景な部屋では隆景以外に元親の気を惹く物などない。

「金輪際、父上にも兄上達にも近付かないで頂きたい」

「何で…?」

「和が乱れます」

「……って言われてもなぁ…」

反論する素振りを見せた元親を、子供らしくない冷めた目で睨む。

扱いにくそうな子供を前に、内心溜息をつきつつ

「じゃあ最初に言っておくが…俺は我慢するのが嫌いだ」

「何を…?」

「で、元就に会いてぇって思ったら、我慢せずに来ているわけだ」

「戯言を…」

「俺は戯言だけでこの距離を越えてくるほど酔狂じゃねぇぜ?」

実際に行ったことは無いが、地図上での距離くらい隆景だって知っている。

そして島の多い瀬戸内海を、船を座礁させずに訪れる労とて知っている。

知ってはいても、感情がついていかないのだ。

「お前も恋したら分かるって」

その葛藤を見抜いたのか、殊更明るい声でそう告げる元親に

「…では貴方の感情は、父上に対する愛だとでも?」

「お、うまいこと言うじゃねぇか。そうだ、愛だな」

「……斯様な言葉で父上を誑かしたのですか?」

「はぁ?誑かすって…人聞きの悪い…」

「それ以外に言いようはございますまい!!」

「た、隆景…?」

「お前のような者に気安く名を呼ばれとうない!!」

そう言って睨み据える様は、生まれながらに人の上に立つ者特有の傲慢さがあった。

「私達は…ずっとずっと父上を…!!」

昔の父に戻って欲しいと、ずっとずっと守って、願って、祈って、努力した。

それを目の前の男は、出会った瞬間から父に影響を及ぼしてきた。

何も出来なかった自分達を尻目に。

「なぁ…隆景…」

「名を…っっ!!」

「うるせぇ。聞け」

いつものどこかぼんやりした表情ではなく、鬼と呼ぶに相応しい視線の強さに、隆景はたじろいだ。

体を強張らせ黙り込んだ隆景に、少し脅しすぎたと思ったのか

「人にはよぉ…それぞれ役割っつーのがあるんだ。何でもできるわけじゃねぇ」

微かに笑みを浮かべて、諭すように口を開く。

「俺が元就に影響を及ぼしたと言った奴がいたが…」

「…兄上ですね」

「…ああ…もし隆元がそう思ったなら、隆元の中で俺の役割はそれだったんだろうよ」

否定はしないが、積極的に肯定もしない元親に苛立ったのか、少し皮肉げに隆景は問い掛ける。

「ならば貴方の役割は父上を昔の父上に戻すことですか?」

「…まあ…それもあるかもな。それ以外にも手下に対しては頭としての役割がある」

「……それは…存じ上げております」

改めて己との立場の違いを認識してしまった隆景だが、それは元親の意図するものではない。

急いで話題を繋げるように、少し早口でまくし立てた。

「で、お前らの母親は元就にすっげぇ大きな影響を及ぼしたらしいじゃねぇか…?」

「……はい」

母親が死んだ時の父の嘆きは、並大抵のものではなかった。

それこそ子供達が悲しむのを躊躇うほどで。

父はそれほど母を必要としていたのだ。

「じゃあそれが彼女の役割。で、お前達…子供達は…」

「何も…何も父上のお役には…」

「んな顔すんなって。お前達はずっと元就の支えになってきただろ?」

足手纏いにはなったことはあるが、父親を支えてきた自信など欠片もない。

「…いえ、私達は…」

「お前らの話する時の元就は…」

言葉を途切れさせた元親を見上げると、隆景の視線に気付いた元親は苦笑して

「妬けちまうくらい、いい顔するぞ?」

少し悔しそうに、それでもそれを己の如く自慢げに告げる。

元就の大切にしたいと思っているものをも含めて、元親は彼を求めた。

幼いながらも聡い隆景には、直感的にそう理解できてしまった。

己にそれが出来るかと訊ねられれば、彼は即座に「否」と答えるだろう。

「…父を……父をよろしくお願い致します」

「は?」

「私が最初に言ったこと…覚えてますか?」

「あ?ああ…一応は覚えてっけどよぉ…」

「もう二度と言いません」

悔しそうに唇を噛み締める幼子に、元親は悲しげに目を遣ると

「…俺の言ったことも…覚えてっか?」

「はい」

「んじゃ我慢しねぇぞ?」

小さな体を腕に収めると、泣いている子供を宥めるように、一定の間隔でそっと背を叩く。

「え?」

「ごめんな。お前らの父親…取っちまったみてぇで…」

「…みたい…ではありません」

とうに元就の感情は、危ういまでに元親に傾いている。

子供でも、分かってしまった。

「あ〜…かもな…」

「死なないで下さいね」

「へ?」

「も、もちろん父上の為です!!」

照れ隠しなのか、顔を元親の胸に押し付けている隆景は気付けなかった。

ぎゅっと着物を握り締めてくる幼子に、鬼が慈愛に満ちた笑みを向けていたことに。