父様…母様…大方様…兄様…

松寿丸は…

「満たされてもいいのでしょうか?」

幸若丸…元綱…そしてこの手で死を齎した者達よ…

元就は…

「幸せになっても良いか?」

妙玖…隆元…元春…隆景…我が子たちよ…

私は…

「あれの手をとってもいいか?」

元親…

我は…

「お前を選んでも良いのか?」



『俺について来いよ』



「お前の言葉を…信じても良いのか?」



『俺を、信じろよ』



「もとちか」



す ま な い …





安らかとは言えないが、元親の腕の中で眠りについている元就の髪を、笑みを浮かべて撫でる。

その頬を伝った雫に驚き手を止めるが、元就を起こさないように更に深く抱き込んで

「お前は悪くないからな」

言い聞かせるように囁く。

何でも一人で背負い込もうとする元就は、元親にとって痛々しいものでしかない。



幼い時分に、考える暇もなく跡目争いに巻き込まれた元就と、戦に対して納得するまで考え抜けた自分。

元就は次男として兄を支えるつもりで生きてきた。

それなのに今は、己があの家を守らねばならない。

無形のものを守る為には、元就の感情は二の次。

見たくないものを見据え、やりたくないことも実行し、ただずっと消え逝く命を見つめてきたのであろう。

弱いから優しいから、己を守る為に元就はこんな風になってしまったのだ。

何も感じないふりをすれば、本人はもとより元就を祀り上げた家臣も楽だったに違いない。

自分は陰口を叩きつつも、無理強いはしなかった周りの理解もあって、この時代を一歩引いた視点で眺めることが出来た。

確かに「鬼として生きる」と開き直るのに時間はかかったし、家臣の信頼を勝ち得るのにも時間がかかった。

それでも今は、そうして生きることに後悔はない。

そう考えると、つくづく自分は運がいいのだと思う。

この痩躯を、腕に閉じ込められることも含めて。



いつか、離れなければならないとしたら、自分はどうするのだろう。



「ごめんな」



手放す気など無くて。