道を交差させるには、どうすればいいだろう?
自らの意識も、薄れ掛けていた頃、エドの耳に急に声が聞こえた。
「…大出血サービスだ。もう一つ…叶えてやろう」
エドは長時間、口を開かなかったのに、意外に掠れていない声で問い掛ける。
「…どういう風の吹き回しだ?」
「マスタングはあの時、死んでいたかもしれない。あそこは戦場だったからな…それを助けたから…お前は後の歴史に貢献したってことだ」
不意に引っかかりを覚えたエドは、以前聞いた言葉を思い出していた。
『…好きなだけ…暴れて来い。歴史には影響はない』
それは確かに目の前の人物の言葉。
「歴史に影響はないって、言ってなかったか…?」
肩をすくめた“誰か”は、あっさりと言い放った。
「これから描かれる歴史に、影響もクソもあるか?」
「は?」
「だがまぁ、奴を導いただろう?それだけは、あらかじめ決められていたことだ…」
「まさか…」
もしかしたら、彼は一人であの結論に達していたかもしれないけれど…
もしかしたら、彼があの結論に達したのは、戦いが終わってからかもしれないけれど…
「まぁ、触媒みたいなものだな」
まるでエドの考えを読んだかのように、目の前の人物はそう称した。
起こる事象は変わらないけれど、その速度を確実に速めた…
だから、触媒なのだろう。
「よくやった。ご褒美だ」
早い話、エドは騙されていたということだ。
自分の思った通りに行動したつもりだったが、それも全てこの目の前の“誰か”の予想の範疇だったようだ。
怒りを通り越して、笑うことしか出来なかった。
「お前は、何を、望む?」
“誰か”の問いに、今まで関わった人物と再び関わりを持つために、最も効果的な方法を考える。
また会いに行っても、前回のように無駄足になるかもしれない。
もっと、下地を作ってから…
何か閃いたのか、エドは勢いよく顔を上げると真剣な声と表情で告げる。
「じゃあさ…俺がいたこと…出来るだけ消さないで欲しい」
「…軍の記録や、戸籍は抹消されるぞ?」
写真や書き残したものも…
「俺が直接写ってたり、書いたりしたものは残らなくても仕方ない…」
「それだと、何が残るんだ…?」
「みんなの記憶の中に、僅かでも残っているのなら…」
いつもの光がその瞳に宿り始めた。
「引きずり出すまで」
エドが何を残そうとしているか、気付いたようで
「なるほど…な…」
どこか楽しそうに、“誰か”はまるで共犯者のように笑う。
エドはその時、自分の立てた仮説が正しかったことを知り、思わず笑みを浮かべた。
そう…これらは…
あらかじめ用意されていたシナリオ…
「…さんきゅ」
だからエドはそれを気取らせないように計らってくれた“誰か”に微笑みかけた。
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