のどかな村。
何故か勧誘のために、足繁く通っていた。
本来ならここまでしつこく勧誘などせず、本人の意思で軍に従属してもらわなければならない。
だが、彼は熱心な勧誘に眉を顰めることもなく、いつだって歓迎してくれる。
勧誘の為…というより、いつの間にか休暇のような気分でいた。
事前に連絡を入れなかったせいか、アルフォンス君の家に行くと留守だったのだが、近所の方に行き先を教えてもらった。
この村の人たちは、軍服を着た自分にも本当によくしてくれる。
どうやら彼は幼馴染の少女の家によく遊びに行っているらしい。
素朴なつくりの家に、彼はいた。
「君の幼馴染は機械鎧の整備士なのか…」
「あ、はい。なかなか評判がいいんですよ」
にっこり笑う様は、自分の幼馴染に対する尊敬を含んでいた。
「そうか…」
エドワードとは全く違うはずなのに、この目の前の少年は彼にどこか似ていた。
邪魔をしてはいけないと思いつつ、オイルのにおいの充満した部屋から出る気はなかった。
アルフォンス君が、こうして少女の仕事振りを見るのはいつものことなのか、患者はそれを気にしている様子もない。
彼はじっと幼馴染の少女の手元を熱心に見ていた。
まるで、機械鎧の整備士を目指しているかのように。
「整備中だよ」
少女の祖母だという女性が、そう言って退室を促してきたが
「そうですか」
そう言ってはぐらかした。
「…興味あるなら見て行きな」
鈍い男だと判断されたか、食えない奴だと判断されたかは分からないが…
滅多にない経験なので、ありがたく見学させてもらうことにした。
オイルのにおいや、金属の擦れる音…
あまり快適とはいえない環境だが、慣れるとそれなりに落ち着くものだ。
邪魔とは知りつつ、出来るだけ影がかからないように、少女の手元を上から覗き込ませてもらう。
軍服を着た男が見ているものだから患者が少し驚いたようだが、少女の祖母が何も言わないので、気にしないことにしたようだ。
しばらく見ていて、どうしても気になった部分があったので、近くにいる幼馴染の祖母に声を掛けた。
「失礼ですが…」
「おや?なんだい?機械鎧技師にでも転職したくなったかい?」
部品などの整理の手を止め、豪快に笑う彼女は、年齢を感じさせないほど元気だ。
「あ、いえ。ただ…そこのジョイント部分なんですが…」
触れたことはあるけれど、別に機械鎧に詳しくはない。
むしろその仕組みは今日、初めて見たはずだ。
だが、どうしてもその螺子の部分が気になってしょうがなかった。
「ここ…?」
少女と患者とアルフォンス君が不思議そうに、その部分を指し示す。
「そう。そこは、もう少し短い螺子の方がいいんじゃないかと思って…」
どうして素人がそんなことを思ったのかは分からないが、自然と言葉が出てきた。
「その長さの螺子だと、神経に触れる可能性もあるのでは…?」
機械鎧の痛みなんか知らない。
でも、この患者が痛みを感じるのは嫌だった。
そのことに関して、この人の良い人達が心を痛めるのも嫌だった。
ただそれだけだった。
「…ウィンリィ…これ、何番螺子だい?」
暫く神妙な表情を浮かべていた少女の祖母は、その表情のまま声を発する。
「え?確か……7番…?」
螺子の頭に書かれた小さな文字を、少女は目を細めて確認している。
「マスタング中佐…あんた一体何者だい?」
「…軍の狗ですが?」
他にどう言えば良いのか?
「最近の軍は機械鎧についても勉強してるのかい?」
驚いた様子に、何かおかしなことを言っただろうかと不安になる。
「いえ…」
機械鎧のことなど軍では一切、勉強しない。
一瞬だけ眉を顰めた少女の祖母は、すぐに少女に声を掛けた。
「ウィンリィ…指示した螺子と違うよ」
その螺子をまじまじと見ていた少女が、不意に声を上げる。
「え?あっ!?そっか!!ここは7番じゃなくて…」
7番螺子と間違えやすいのは、数字の形と螺子の頭の形が似ている…
「1番?」
どうしてその番号が出たのかは知らないが、少女に問い掛けると彼女は頷いた。
「そう。螺子の頭の形は同じだから、間違えやすいんだよ」
付け足しのような少女の祖母の言葉は、意識の深いところで理解できた。
「やだ〜!!またやっちゃった!!」
患者に謝りながら慌てて螺子を変えている少女の言葉に、引っかかりを覚えたが
「中佐って、凄いんですね…」
純粋にアルフォンス君に褒められて、少し照れくさくなった。
だが…あの螺子を…
どこで…見た?
「いってぇ…っ!!」
「どうしたんだい?」
「いや…いつもと感覚が違う…ってオイ!!」
「な、なんだね?」
「あいつまた7番螺子と1番螺子間違えてやがる!!」
「ほう。どう違うのか分からないが…」
「長さが違うんだよ。7番螺子の方が長くて…しかもそれが時々神経に触れるくらいの長さで…」
「ふむ…神経に直接触れるとは…痛そうだな」
「…ああ…ったく…最悪だ…」
「こら。痛むならなるべく動かさない方がいい」
「…何にも出来ねぇじゃん…」
「いいから…」
「よくねぇよ!!」
「ほら…たまには素直に甘えなさい?」
「……っ…きょ、今日だけだぞ!!」
「はは…本当に君はかわいいな。…が…の」
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