書庫の片隅でしゃがみこむ。

夕日が沈んでいく様子に、思わず見惚れていた。

「こんなに暗くては本を読むのも大変だろう?」

不意に口をついて出た言葉は、違和感なくこの空間に染み入った。

「そろそろ帰らないか?」

そう言って手を伸ばしても、そこには…なにもない。





誰も、いない。





ロイは暫く自分の伸ばした手を見つめていたが、首を傾げると書棚に背を預けた。

目の前の書棚に並んでいるのは、錬金術に関する書ばかり。

普通の軍人なら訪れる必要もない場所。

(よく…ここに篭っていたな)

まだ国家錬金術師になったばかりの頃、勉強の為にここの本を読み漁った記憶がある。

だが…

(本が…増えている?)

確実に時は流れているようで、ロイが見た事のないような本が並んでいる。

手の届く範囲で、一冊だけ手にとって見る。

(…これは…?)

一般の人間が見れば、ただの錬金術書だが、ある程度の錬金術師なら分かるような書き方がされていた。

(人体…錬成!?)

そこには、はっきりとそう書かれているわけではないが、人体錬成に関わることが書かれていた。

何故、禁忌と言われる人体錬成に関する本が、ここにあるのか?

手当たり次第に本を開くと、やはりそこには少なからず人体錬成をにおわせるものばかりが書かれていた。

(誰が…こんな…?)

この書庫の鍵は自分が持っており、半ば私物化していると言っても過言ではないのだ。

それなのに、自分の知らない本が増えている。

(おかしい…ここには私と彼らしか…)

考えを整理しようとしたロイは、自分の考えに何か引っかかるものを感じた。

「…彼ら…だと?」

誰を、あの書庫に入れたことがある?

何かに突き動かされるようにロイは急に立ち上がると、本を片付けもせず自分の部屋に向かった。

机の引き出しを漁っていく。

割と几帳面に整理されている中で唯一、乱雑になっている引き出しがあった。

鍵の掛かっている引き出し。

そこには書類が詰まっていた。

しかも、仕事とは全く関係のないものばかり。

なかには領収書と思しきものまで紛れている。

ロイは震える手で、それらを確認していく。

「何故…?」

そのどれもが、先程見たような人体錬成の書に関わるようなものばかりだった。

中央図書館からの持ち出し許可。

借りた記憶などないのに、中央の図書館から何冊も禁帯出の本を借りたことになっている。

それもかなりの無茶な手続きをしてまで。

古い書の領収書。

買った記憶などないのに、怪しげな古美術商から何冊も本を買っている。

しかもやけに高額なものまでふくまれている。

ロイはこれはきっとポケットマネーだろうと思った。

自分自身、人体練成には興味がない…むしろ嫌悪さえ感じるほどなのに。

どうして全く興味などない人体錬成に関わるものばかり買い漁っていたのか?

答えを求めるように、暫くロイはその紙を眺めていた。

「失礼します」

ノックの音とホークアイの声に、漸く顔を上げる。

「…入りたまえ」

いつものようにドアを開いたホークアイは、上司のただならぬ様子に表情を引き締めた。

「どうか…なさったのですか?」

それには直接的には答えず、ロイは焦ったように問い掛ける。

「少尉…私は誰かに本を買ったりしていただろうか?」

「いえ…そのようなことは…」

そう答えた後、不意にホークアイは首をかしげ

「でも…誰かに本を借りるように頼まれていませんでしたか?」

「誰に?」

「え?」

ホークアイもその“誰か”は思いつかなかったようだ。

だが、ロイには鍵を握るであろう人物は、思い浮かんでいた。





「…アルフォンス・エルリックを…呼んでくれ」


















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