振り向けば、そこには…
「大佐…」
「……エドワード…?」
呆然とその名を呼んだロイは、違和感を覚えた。
「……………鋼の?」
思いついた名を呼べば、彼は嬉しそうに微笑んだ。
まるで、悪戯に成功した子供のような笑みは、どこか眩しいもののように感じる。
「久しぶり」
ほんの数ヶ月、ちょっとそこまで旅をしてきた、といった言い方に、一瞬ロイは瞠目した。
だがすぐに、その言い方が妙にしっくり馴染むことにも気付く。
彼は覚えていないかもしれないが、それは幾度と無く繰り返された光景だったから。
「ああ………久しぶり」
ロイの中で、今までの奇妙な出来事が符合し始めた。
不意に思い出した『鋼』の称号を持つ少年。
見たこともないと思っていた機械鎧に、誰かに聞いたかのようにやけに詳しい自分。
不気味なくらい、誰の為でも、ましてや自分の為でもなく集めていた本。
まるで共通な記憶の一部が欠如したかのように、何かを思い出せない司令部の人間。
彼と同じファミリーネームを持つ少年が垣間見せた、曖昧なアイデンティティー。
そして、一度しか会ったことのないはずの彼の名残を、司令部内で見る時。
いつも、自分は、誰かを、探しているのだと、思い知らされた。
「答え…聞かせろよ」
「答え?」
「最後にさ…俺から言ったじゃん」
『ずっと…好きだったんだ…』
ロイは、ゆっくりとエドに手を伸ばす。
「改めて言わせて欲しい…」
その存在を確かめた途端、ロイはエドを胸に掻き抱いた。
「私は…君のことが…ずっと…」
好きだ
その声に、エドは満足そうに笑った。
やはり、“あの時”言ったように、帰ってきたのだ。
この、腕に。
新しい出会いに…幸多からん事を。
今までの運命に…安らかな眠りを。
これからの二人に…ささやかな祝福を。
それまでの苦しみに…おやすみのキスを。
『やば…すっごい幸せかも…』
扉の前の“誰か”が微笑んだ。
TOP BACK POSTFACE