この夜が終わるまでに…










「で?何の用で来たと?」

猪里は不機嫌なのを隠そうともしていない。

腕を組んで、眉間に皺を寄せている姿を見れば一目瞭然。

「よ、用があったわけじゃないんDa…」

しどろもどろに答えると

「そんなら何ばい?こげん時間に来て…」

打てば響くように、虎鉄の言葉に反応する。

「…いや…その…」

なかなか言わない虎鉄に、業を煮やしたのか

「なしてね?」

少しだけ態度を軟化させ、促すように猪里は首を傾げる。

「あ〜お礼を言いたかったんだYo…」

苦しい言い訳。

「携帯電話でメールすればすむこつやろ?それに…どうせまた明日、学校で会えるんやけん…」

案の定、猪里は溜息をついてドアを閉めようとする。

たちの悪いセールスマンのように、慌てた虎鉄はドアの隙間に足を挟んで

「猪里が一人かNa…と思ったら勝手に体が動いてたんだYo」

カッコ悪いと思いながらも、虎鉄は本当のことを告げた。

冷たい目で見られるかと思った虎鉄は

「ばっ、馬鹿やなかのか!?」

と言って、やや頬を赤く染めた猪里を呆然と見ていた。

やがて猪里は、その視線に気付いたようで

「帰れ」

いつものようにその言葉を口にした。

「そんNa〜こんな暗い中、帰りたくNeえ〜」

虎鉄は来る時は夢中で気付かなかったようだが、夜道はかなり怖いとようやく気付いたようだ。

まあ確かにこんな中を帰りたくないだろう。

それに、せっかく猪里に会えたなら離れたくないと思う虎鉄の気持ちも分からないでもない。

本気なのか冗談なのか、たぶん半分半分くらいの割合で虎鉄が最後の抵抗を見せた。

すると意外なことに、猪里はそっぽを向いて呟いた。

「…今日だけは…泊まってもよか」

「えっ!?それって誘ってくれてるのKa!?」

「調子に乗るんやなか!」

近所迷惑なことこの上ないやりとりは、猪里の拳骨で幕を下ろす。

「いたっ!」

頭をさすって文句を言っている虎鉄を一瞥して、猪里はまた星空を見上げた。

「ありがとNa」

虎鉄の小さな声に、猪里は虎鉄に視線を向ける。

しかし、虎鉄は夜空から視線を逸らさずに呟く。

「綺麗だNa」

「本当に…綺麗やね…」

猪里も同じように空を見上げて微笑んだ。




暫く経ってずっと玄関に立ちっぱなしだったことに猪里は気付く。

そして、やや強引に虎鉄を引っ張り、玄関に押し込むようにしてドアを閉めた。

「お邪魔するZe」

上機嫌でずかずか部屋の中に上がりこんで行く虎鉄の背に

「寂しくなんかなか」

苦笑して呟いた猪里の言葉は届いたのか…


虎鉄は振り返って、微笑んだ。




この夜が終わるまでに…

君のもとへ…


でも…夜が明ければ、君にまた会えるだろう?


だから寂しくなんかないんだよ







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