地獄の中で、天使を見たんだ。
そう言った男の部下の約半数が、引いた。
「天使…ある宗教において、神の使者として天界から人間界へ派遣され、神と人間との仲介をするもの」
ファルマンの言葉に、ようやく現実に引き戻された。
「どこで…ですか?」
そう訊ねるホークアイも、一瞬呆気にとられていたようだ。
「イシュバールの内乱でね…」
長い金髪を三つ編みにし、深い金色を湛えた瞳は宝石のようだった。
紅いコートを身に纏った彼は、天使ではなくただの子供だった。
だが、戦場の死のにおいが立ち込める中、その子供は生のにおいを放っていた。
コートの赤が血の色でも炎の色でもなく、もっと別の…花や果物などを思い出させるほどに。
明らかに異質の存在に、眩暈にも似た感覚を覚えた。
「だから…天使などというものに当てはめてしまったのだろうな…」
ぼんやりと呟いて、更に
「何故あの小さな子供を、天使などと思ったのだろうな」
どこか自嘲に似た笑みを浮かべ、マスタングは溜息をついた。
「ちっちゃい…?」
「豆…?」
ブレダとハボックがほぼ同時に呟いた後、何故か自らの口を押さえた。
何かに怯える様子に、回りの人間も本人達でさえも首をかしげた。
「そうだ…私の胸くらいまでしか身長は無かったな」
そう言って思い出を辿るように、自らの胸の前で手を、誰かの頭を撫でるかように動かす。
そしてふと何かを思い出したのか、マスタングはいきなり噴き出して
「そう…そのことを指摘したら、物凄い勢いで…」
『誰がぶつかっても気付かないくらい小さいかぁっ!!』
そうわめき散らしたのだ。
「戦場だというのに、緊張感もない天使…いや…子供だったよ」
不意に浮かべた笑顔は痛みも伴っていて、回りの人間は思わず目を逸らした。
「また…会いたいものだ」
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