言葉遊びは、彼の方が一枚うわ手だった。
「どうする?『いつ』の『誰』に会いたいんだ?」
その言葉にエドは暫く考える仕草をしていたが、やがて何かを思いついたらしく顔を上げる。
そして真剣な表情で、目の前の人物を見据えた。
金の眼に以前のような光を見出した人物は、表情こそ見えないが感嘆の声を上げたようだ。
「…決まったか?」
「…ああ」
エドは深く頷くと、不敵な笑みを浮かべる。
「過去に行きたい」
「…過去?」
こんなことを叶えることができるのだろうか。
だがもし…この仮説が正しければ…
「そうだな…イシュバールの内乱が始まってから…7年後くらい…」
エドはもう既に、あちらの世界に『存在しない』ことになる。
しかし、エドワード・エルリックという人格は“ここ”にいる。
ならばどうにかして、その人格を伝えられるのではないだろうか。
今まで関わった人間の中に、どうやっても“自分”は残っているはずだ。
「じゃあ、お願いは『国家錬金術師が内乱に投入された頃のイシュバールに行きたい』ってことで」
だから後は、関わりを…再び持つだけだ。
これは…きっと選択。
再び与えられた、選択の余地。
そして多分、この要求は目の前の“誰か”の予想の範疇に収まっているだろう。
「…いいだろう」
表情はないがその声から、エドと同じように不敵な笑みを浮かべていると予測できた。
エドには長い間、表情の分からない鎧の弟の感情を、声からだけで読み取ってきた経験がある。
すると座っていた“誰か”は立ち上がって、エドのいるところまで歩み寄ってくる。
手を伸ばせば届きそうな距離まで来ると、急に声を潜めて
「…好きなだけ…暴れて来い。歴史には影響はない」
二人しかいないような空間なのに、誰にも聞かせたくないかのように、やけに小さな声だった。
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