変わらないことを、見つけた。
夜が訪れれば、暗黙の了解のように戦闘は終わった。
だがそれは、たった一時のことでしかない。
明日の朝、あるいはこの夜が深くなる頃…
どちらかがどちらかを襲うかもしれない。
「帰らなくていいのか?」
いつまで経っても立ち去ろうとしない男に、子供が声をかける。
徐々に冷えていく空気の中、その声は真っ直ぐに男の耳に届いたようだ。
「どこに?どこに帰るというんだ?」
相変わらずどこを見ているのか分からない表情で、ロイは機械的に問い返す。
「本部…?」
そんなロイに対して免疫のないエドは、ひどく答えにくそうだった。
「ああ…確かに…上官のお小言を聞きに行かないとな」
「…帰りたくないんだ?」
ようやく浮かんだ苦笑いに、あまりその上官を好ましく思っていないことを知る。
いや、上を目指すこの男にとっては、どの上官もただの障害物なのかもしれない。
「…そもそもあそこは帰る場所ではなく、戻るべき場所だ」
別にエドが間違ったことを言ったわけではないが、どこか咎めるような響きがその声に含まれていた。
今までのぼんやりした雰囲気を払拭した真剣な表情でエドを見つめる。
それはエドの記憶に微かに残っている表情に酷似していた。
「あんま難しいことばっか考えてると…ハゲるぞ?」
笑いたいのを堪えて言ったエドに、ロイの表情も緩み、無意識なのか頭に手をやって同意を示した。
「…そうかもな」
珍しく素直な答えに、どこか満足そうにエドは笑う。
「じゃあ…今夜は野宿でもするか…」
「…砂漠で野宿…?死ぬ気か?」
野宿などという単語を、ロイはこの砂漠地帯で耳にするとは思っていなかった。
軍が意図してそうしたのか、この戦いに参加した者は砂漠での生き延び方をあまり知らない。
砂漠に逃げられて、下手に生き延びられても困る、といったような理由だろうが。
「場所さえ選べば何とかなるって」
自らの経験を元にエドは場所を探し始めた。
手慣れた様子を訝しげに思いつつ、ロイは小さなその背中に問い掛ける。
「お前は…これから…どうするんだ?」
「ん?俺?しばらくこの辺りにいるけど?」
今は軍の人間でもないのだから、軍のテントには行けないだろう。
あんたは?視線だけでエドは、戻りたくないと言っていた相手を見遣る。
「…ならば今夜はここにいよう」
「戻らなくていいのか?」
出世に関わったりとかしないのか?
一応、まだ出会って間もないことになっているはずなので、エドはそこまで不躾な質問は出来なかった。
「大丈夫だ」
だが心配していることは伝わったのか、そう言ったロイは安心させるかのように柔らかく微笑んだ。
「戻ったところで、何もない」
続けてはっきりと言い切ったロイを、エドは寂しげに見上げた。
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