ぬくもりを、覚えている。
砂漠では日中の酷暑が嘘のように、夜は異常なまでに冷え込む。
しかし、風と砂から身を守れれば死ぬことはないだろう。
「…寒くないか?」
風の影響があまりない岩場の影で、二人はロイの纏っていた白い布を共有している。
完全には風は防げず、岩が体温を奪っていくようでやはり寒い。
「別に…」
口とは裏腹に、微かに震えるエドに苦笑をもらし
「嫌かもしれないが…我慢してくれ」
そう言ってロイは布をエドに全て渡すと、エドの後ろに回り込んで座る。
「えっ!?ちょっ…!!」
「大人しくしろ」
有無を言わせず、ロイはエドの背中から覆い被さるように腕を回す。
あまりにも急なことで、無意識にエドの体が強張る。
「この方が確実に温かい」
当然と言えば当然なのだが、色欲など一切感じさせない言葉に、エドは何も言えずに頷いた。
漸く体の強張りが緩んだ頃、エドの右肩を触っていたロイが呟く。
「…機械鎧か…?」
「ん?ああ…あんま触んねぇ方がいいぜ…冷たいだろ?」
ロイは黙ってその機械鎧をも暖めようとするかのように、更に深く抱き込んだ。
その行為があまりにも優しくて、少しだけエドは泣きそうになった。
「あんたの方が寒いだろ…?」
「……もう慣れた」
その言葉にエドは眉を顰めると、ロイの腕から逃れる。
「こら。寒いだろ?」
咎めるような声に首を横に振って否定を示すと、膝の上でくしゃくしゃになっていた白い布をロイの肩に掛ける。
次に自らの赤いコートを脱ぎ、再びロイに背を向けて座り、コートを広げ男の足にかかるように掛ける。
すると当然、エドの足にも布が掛かる。
「これなら…俺もあんたも暖かいだろ…?」
「なるほど…そうだな」
大した影響はないだろうが、気休めにはなるだろう。
離れてしまったことで冷えた体を、再び温めるようにロイは抱き込む。
隙間が出来ないように、エドは後ろの温もりに背中を預けた。
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