不器用なところも、覚えている。







ともすれば黙りがちになるロイと、そんな雰囲気に慣れていないエド。

当然、沈黙が訪れた後、居心地が悪くなって口を開くのはエドの方だった。

「なぁ…手…」

「て?ああ…手か…」

節くれだってはいるが、どこか細さを感じさせるロイの手。

その利き腕である右の掌に、軽い火傷を負っていた。

「調節できなかった…とか?」

彼特有の練成法を真似て、エドが指を擦り合わせると

「…知っているのか?」

この少年が来てからは、一切炎の練成は行っていないはず。

そう言いたげな眼差しでロイが見ると、エドは遠くを見るように目を細めて呟く。

「見たことあるんだよ…あんたが戦ってるとこ」

そんなエドの表情が見えないロイは、納得したのかしていないのか曖昧に「そうか」とだけ言った。

「包帯になるもんとかない?」

「軍から支給されたものなら…」

腰に取り付けられた小さめの袋を取り外して渡す。

エドがいるせいで動きにくそうだが、その手を離そうとはしなかった。

渡された小さな袋を、遠慮なく開く。

その中には、救急箱の中身と同じようなものが入っていた。

戦場での怪我は命に関わるものなので、その時に大して役に立つとは思えない。

ただ、普段の怪我などになら対応できるだろう。

その中を確認しながら、必要な物を取り出す。

「そんなものが入っていたのか…」

エドの後ろから、覗き込むようにして見ていたロイが呟いた言葉に、エドは思わずツッコミを入れる。

「確認しなかったのかよ」

「ああ、必要ないと思って」

中を見ていないというのなら、今この袋に入っているものだけが軍から支給されたことになる。

「…少ねぇ…」

「そちらにまで予算を回せなかったか…端から渡す気などなかったか…だな…」

嫌なことをさらりと言うロイに、エドは後頭部で軽く頭突きをする。

「…何をするんだ」

あごを押さえたロイが不満を口にすると

「そういう言い方はすんな」

「…そうだな」

思った以上に不機嫌なエドの言葉に、ロイも思うところがあったのか素直に頷いた。

「ほら…手…」

大人しく差し出された手に、傷薬(と思われるもの)を塗って、包帯(みたいな布)を巻く。

「…これで少しはマシになるだろ」

自分の仕事に満足したエドが大きな溜息をついて、片付けを始める。

処置の施された自分の手を、まじまじと見ていたロイは、ふと思ったことを言ってしまった。

「…お前…不器用だな…」

確かにお世辞にも綺麗とは言えないし、手を握ったりしたら布が邪魔で握ることすらできない。

「黙れ」

だが、エドはやり直す気など毛頭ないようで、ロイに袋を返しながら睨みつける。

「…いや…ありがとう」

その眼光の鋭さに、流石のロイもたじろいだ。

「あんただって不器用だろ」

「そうか…?…ああ…そうかもな」

エドの知っているロイは、指先はあまり器用ではなかった。

「だが、お前よりは器用だと思うが…?」

ついでのように付け加えられた言葉は、すぐ側にいるエドの耳にしっかり入る。

その為、再びロイはエドの後頭部での頭突きを食らう羽目になった。


















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