夢の始まりも、覚えている。





少しだけ後ろに体重を預けてみる。

男はその重みを黙って享受した。

「あんたさ…絶対に大総統になれるよ」

エドのいた未来では、まだ大佐だったけれど。

絶対になれると、信じていた。

いや…今でも信じている。

「大総統だと?」

可能な限り後ろを振り向いたエドは、ロイの驚いた表情を見た。

思ってもいないことを言われたかのような表情から察するに

(なるほど…この頃はまだ大総統になる気はなかったのか)

では、いつからだろう?

この男が野望を抱くようになったのは?

「ふっ…大総統になってどうする?」

自嘲気味な笑みを浮かべる、記憶の中よりも若い男。

見惚れてしまいそうになるのは、やはり惚れた弱みか?

「あんたなら、どうする?」

質問に質問で返したにも関わらず、男は文句も言わず考える仕草をする。

今の大佐では考えられない素直さだ。

暫く考えていたようだが、不意に何かを思いついたようで

「なるほど…この腐った制度を…なくせばいいのか」

「ああ…それ、いい考えじゃない?」

きっと自分がいなくても、この男はこの答えに行きついたのだろう。

でも、それに自分が関わっていると思うと、自然と笑顔も深くなる。

「お前も、そう思うか?」

思いつきで言った言葉が、妙にしっくり馴染む上、賛同する人間もいる。

嬉しそうに、本当に嬉しそうにロイは笑った。

無邪気とも言えるような、今まで見たこともないように綻んだ顔が、エドの目に焼きついた。





「そういえば、お前…名はなんと言う?」

「…エドワード…エドワード・エルリックだ」

「そうか…エドワード。俺の名は…」

「ロイ・マスタングだろ?」

さらりとエドが言い当てると、素直に驚いてる。

それはそうだろう。

初対面のはずの見も知らぬ子供に、名前が知られていたのだから。

「…俺のファンか?」

こういう思考回路はこの時からだったようだ…

「まあそういうとこ」

特にツッコミを入れずにエドがそう言うと、自分で冗談を振ったくせに、ロイはまた驚きを表情に出した。



「ファンっていうかさ…」



どうせもう会えないかもしれないのなら…



秘めていた想いを伝えてもいいだろうか?





「ずっと…好きだったんだ…」


















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