あの時の気持ちは、間違いではないと言い切れる。







男から告白されたのは、後にも先にも一度きり。

女好きの自分としては、不本意でもある。

だが…

「一目惚れ…だな」

あれからずっと…

私も、ずっと好きなんだ。



人は馬鹿げた話だと言うかもしれない。

天使などいない。

確かにそうだ。

天使はいない。

だが、彼は、確かにいた。

朝日の眩しさに目を開ければ、まるで溶けたかのように腕の中からいなくなっていたけれど…

その温もりは、いつまでも消えることはない。

アンバランスな温もりは、今だって。





部下が不審そうにこちらを窺っているのに気付き、ロイは手元の資料に集中する。

その気配を感じ取ったようで、ホークアイ少尉がようやく声をかけた。

「国家錬金術師の候補はお決まりですか?」

「…まだだ」

手元にある『それなりに使えそうな錬金術師』をまとめたリストから目を逸らす。

人間の名前と、その人間が得意な錬金術のみが書かれたそれは、長時間見るにはきつい代物であった。

「そうだ。少尉」

「なんでしょう?」

「君が勝手に決めてくれ」

満面の笑みで資料を渡そうとするロイに、ホークアイは眉を顰め

「お言葉ですが、私に錬金術のことは…」

「分かっている。今から言う条件に当てはまる者だけを選んでおいてくれ」

資料だけでなく、メモ用紙とペンをセットで渡す。

今度はホークアイも仕方なく受け取った。

「条件…ですか?」

「ああ。まずは田舎の者。」

早速、ロイが言い始めたことを、ホークアイは素早く書き出す。

「年齢はあまり低くない方がいい。若いうちは無茶をする」

「高い分には構いませんか?」

「いや…年齢が高いと、頑固だからな…20代後半から40代前半で探してくれ」

「了解」

「そして出来るだけ悪い評判のない者が好ましい」

「了解」

暫く間があったので、紙からロイに視線を移したホークアイは最終確認をする。

「以上でしょうか?」

「…エドワード・エルリック」

「え?」

「いや。すまない…あの時の子供が、錬金術師だったから」

思わぬ失言をしてしまった口を手で押さえて、ロイは笑った。

ただ、あまりにも力ない笑みは、ホークアイの眉間に深い皺を刻む。

「分かりました。その子供に関わりのありそうな錬金術師を探してみます」

「あ、そういうわけではなく…」

いらぬ気を使わせてしまったことに気付き、ロイが何かを口にするより早く

「あの子供の話をされてから、ずっと何か考え込まれてますね」

核心をついたホークアイの言葉が放たれた。

「…何でもない」

何も言い訳できないロイは、苦笑を浮かべ

「忘れてくれ」

「…了解」

一瞬だけ心配そうにロイを見た後、ホークアイはすぐに背筋を伸ばした。







それでも現実は、過去を懐かしむことを許さないかのように、足早に駆け抜けていく。

どう足掻いたって、過去には戻れず、現実を生きる外ないのだ。

それが、ロイの出した答えだった。


















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