ただ、名前が同じというわけではない。
急に呼び出されて、右往左往している少年をロイは司令部に招き入れた。
当然、軍の人間ではないアルフォンスを、そう簡単に入れるわけにもいかない。
「中佐!?軍の関係者でもない子供を司令部内に入れるのは…」
仕事に忠実な見張りの兵士が、ロイに声を掛けるが
「構わん。この子は国家錬金術師の候補だ。国家錬金術師になることのメリットをその目で見ておく方がよかろう?」
よくもまぁ、嘘がすらすらと出るものだと自分で思いつつ、ロイはそう返答した。
「し、しかし…」
「私の一存だ。責任は私がとる」
はっきりとそう言われれば、兵士は何も言えなかった。
周りの視線を気にしつつ、少し背の高い体を丸めるようにしてアルフォンスは歩いていた。
「あ、あの…本当にいいんでしょうか…?」
心配そうに訊ねる声に、歩みを止めずにロイは振り返り
「ああ…むしろ頼んだのはこちらだ」
と言って苦笑いを浮かべる。
「中佐が後で怒られたりしないんですか?」
「大丈夫だ」
そう言ってロイが笑うと、安心したのかアルフォンスは少し笑顔を見せた。
あの書庫にアルフォンスを連れて行く。
ここに彼を連れて来るのは初めてのはずだ。
扉の前で立ち止まり、アルフォンスに質問を投げかける。
「君はここに入ったことは…?」
「え!?いえ!まさか!司令部の中に入るのだって初めてなのに…」
むしろ、リゼンブールを出たのも初めてらしい。
それをはっきりと確認してから、ロイは漸く扉を開けながら本題を口にした。
「よし。では、ここにある本なんだが…」
「え?ってうわ!!なんですか!?この本の量は!!」
「…うむ…気が付いたら増えていた」
本当に気付いたら増えていたとしか言いようがない。
「あ〜分かります。僕達の父さんも本ばかり買い集めていて…」
「待ちたまえ。今…僕“達”と…?」
「え?そうでしたっけ?あれ?おかしいな…?」
徐々にではあるが、ロイは自分の中での憶測に確信を持ち始めていた。
「それで今日、君に来てもらったのは…」
自分をアルフォンスが見るのを待ってから、ロイは真剣な表情で書棚に右手を当てて
「この中で、見覚えのある本を探して欲しい」
「こんなに!?」
書庫全体を見渡して、アルフォンスは驚愕の表情を浮かべた。
ロイは苦笑いを浮かべて、書棚の一部分だけを指し示した。
「いや…この辺りの人体錬成に関するものだけでいい」
「人体錬成?」
思いもかけない言葉に、アルフォンスが眉を顰める。
「中佐は人体錬成に興味があるんですか?」
そう言って、禁忌に対しての僅かな恐れを抱いた瞳で、ロイを見上げた。
「さあ…ないと思うのだが…」
曖昧な答えに、アルフォンスは首を傾げたが、ロイ自身も迷っていることに気付き
「…僕でお役に立てるんでしょうか?」
「君にしか出来ないことだと思うんだ…だから…頼む…」
妙なことばかりを言う大人の、その真摯さをアルフォンスは感じ取ったようだ。
「分かりました」
快く引き受けたアルフォンスに、ロイは安堵の笑みを浮かべた。
「ありがとう」
「頼む!!」
「だめだ」
「本当に頼むってば!!」
「無茶を言うな…」
「大佐にしか頼めないんだって!」
「…君ねぇ…」
「……何でもするから…」
「…君はいつの間にそんなにおねだりが上手になったんだね?」
「うるさい…もういいよ」
「待ちたまえ。時間はかかるぞ?」
「…いいのか!?」
「ああ。だが手続きには本当に時間がかかるからな?」
「…ありがとう」
「本当に…今度貸しを返してもらうからな?は…ねの」
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