災難
   〜全ての原因は奴にある!!〜  その2





「どうして喧嘩なんかしたんすか…?」

「すみません…あまり言いたくないのです…」

そう言って俯いた辰羅川君に、それ以上追求することは出来なかったっす。



いつもは黙ったままでも気まずくないんすけど…むしろ、二人そろって黙っていることが多いっすから。

でも、今は何だか…気まずいっすよ。

言わない方がいいかなと思ったんすけど…

何となく言いたくなったことがあったっす。

「でも…」

辰羅川君がこっちを見てから

「ああいう風に言い合えるのは、ちょっと羨ましかったっす」

ちょっと本音を織り交ぜながら言ってみたっす。

きっと辰羅川君なら、その僕の本音を汲み取ってくれるから…

本音87%・建前12%・下心54.4%って感じっすかね…(←by猿野)

……って、ええっ!?

下心ってなんすか!?

それに全部足したら、153.4%じゃないっすか!!

100%超えちゃってますよ!?

それよりなんで猿野君が!?

「そうですか…?」

僕の心の中など分からない(分かる方が怖いっす…)辰羅川君は苦笑を浮かべてそう言うと

「私は子津君とはあまり喧嘩をしたくないのですが…?」

悪戯っ子のような瞳でこちらを窺ってくるものだから、答えに窮してしまったっす。

「あ…そうなんすけど…なんて言うか…」

うまく言葉が見つからないのと、ちょっと気恥ずかしいのでどうしても言葉が詰まる。

「分かっておりますとも。何でも言い合える仲になりたいということですね?」

そんな僕の様子を見て、辰羅川君は助け舟を出してくれました。

そういうことをさり気なく出来るところが辰羅川君のいいところっすね。

まあ、辰羅川君のせいで窮地に陥っていたわけなんすけど…

……こういった気遣いに、何度救われたことか…

「そ…そうっす」

僕が頷くと、辰羅川君は眼鏡を上げながら

「いいんですか?私は欲深いですよ?」

なんて冗談めかして言ってきたので、こちらも笑いながら答えることにしたっす。

「僕の方が欲張りかもしれないっすよ?」

「おやおや…これは気をつけなければ…」

全然そんな風に思っていないような口調で言って、ようやくいつものような柔らかい笑みを浮かべたっす。

「あ…じゃあ僕はここで…」

ちょっとしか帰り道が一緒じゃないっすけど、いつものように微笑んでくれたから今日は良しとするっす。

「そうですね…」

辰羅川君に手を振ると、手を振り返してくれたっす。

それを確認してから背を向けると

「あ、そうだ。子津君?」

いきなり呼びかけられて、振り返るとかなり近いところに辰羅川君の顔が…

近い…というより、近すぎ…?

というより…接触してますよ?

離れていく辰羅川君を目で追っていると

「こういう時は目を閉じていただきたいのですがね…」

という辰羅川君の言葉に、自分がどういう状況だったかを理解したっす。

「え…?えっ?えぇ!?」

恥ずかしいくらい取り乱してしまったっす。

「それでは、お気を付けて」

辰羅川君はにこりと笑うと、背を向けてしまったっす。

まだ混乱している僕に、辰羅川君は顔だけ向けるように振り返って

「明日…犬飼君に謝ろうと思っています」

「あっ…そ、そうっすね。そうした方がいいっすよ!」

どうにか落ち着こうと声を出したけど、裏返ってしまって更に恥ずかしくなったっす。

それを気にする素振りも見せなかった辰羅川君は

「ありがとうございます。子津君のおかげですよ」

僕の一番好きな笑顔でそう言ってくれたっす。

それから辰羅川君は振り返らなかったっすけど、僕は辰羅川君が見えなくなるまで呆然と突っ立っていたっす。

彼が振り返らなくて良かったと思ったのは、顔の火照りが冷めた後だったっす…




わざと冷たくしていた時もあったというのに…

「思った以上に惚れ込んでしまったみたいですね…」

思わず浮かんだ苦笑は、決して不快なものではありません。

「子津君のために、仲直りでもしておきますかね」

やれやれ…

少し熱を持った顔は、きっと傍から見ても赤くなっていることでしょう。

振り返ってきっと赤いだろう彼の顔を見れないのが、残念だと思っている自分に、また苦笑が漏れました。

優しい貴方の為に…仲直りでもしておきますかね。






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