災難 〜全ての原因は奴にある!!〜 その3
「待てよ!」
部室を出て行った犬ころを追いかけて、俺も部室を慌てて出た。
「どうしたんだよ。辰羅川と喧嘩なんて珍しい…」
ようやく追いついて、原因を聞こうとしたらいきなり抱き付いてきやがった。
「おい…なんだよ」
訊ねても返事はない。
ただずっと抱き締められている。
自分より図体がでかい男に抱き付かれるのは妙な威圧感がある。
それにちょっと苦しい…
「いい加減、離れろ…」
そう言うと、更に力を込めてきた。
はっ!ま、まさかこいつ…………俺を殺す気か!?
「ま…待て…早まるな。俺を殺しても、ちぃっともいいことなんてないぞ」
命乞い。
「生命保険もオフクロが解約しちまったから保険金もおりねぇし…」
そんなに家の家計って逼迫してたのか…?
いや、そんなことより…
マジ嫌なんだって…こんな死に方…
もうちょっと華々しい散り方が俺にはあっている。
そう、例えば……老衰とか、老衰とか、老衰とか…(←めっちゃ静かじゃないっすか!!
by子津)
「とりあえず…黙れ」
だ、だめだぁ〜!!
このクソ犬には日本語は通じねぇ!!
そもそも俺はこいつを人間とは認めねぇ!!
そして俺も人間じゃねぇ!!
「あ!今日早く帰らないと…罰ゲームが待ってるんだよ」
作戦変更。
同情心を煽ってみることにしよう。
内容的には…ありえない事ではないしな…
腕の力がゆるくなった。
作戦成功か?
見上げてみると、犬飼が俺の顔を覗き込んできた。
「…何て顔してんだよ。犬っころ…」
こんな情けない顔は初めて見た。
いや。
正確に言えば…こいつがこんな顔するなんて思ってもみなかった。
「何が、あったんだよ?」
そう訊ねると、また手を伸ばしてきた。
今度は抵抗はしないことにした。
あんな顔を見せられて、もしこの手を跳ね除けたら…
そう考えると、ぞっとした。
「あたたかいな…」
そう言うと、猿が身じろぎした。
「もういいだろ…離れろよ」
いつもの猿に戻った。
俺もいつもの俺に戻らなければ。
「…こうしていたい…」
…戻れなかった。
だが、いきなりの猿のバカ力で、油断していた俺は簡単に突き飛ばされた。
軽く二、三歩よろめいた。
文句を言おうと開いた口が、驚きの為に開かれるのにはそう時間はかからなかった。
なぜなら、そこには真っ赤になった猿が…
「と、とりあえずモミーに謝っとけよ!!」
捨て台詞のようにそう言って走り去った猿は、二度躓いたが振り返りはしなかった。
「とりあえず…か」
照れた猿も悪くないと思ってしまった自分に苦笑が浮かんだ。
あのバカがこんなに心配するなら…仲直りでもするかな。とりあえず。
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