雨が降る。

まるで誰かの泣き声のようだ…

どうして雨が降ると、涙ばかりが思い浮かぶのか。



そうか…思い出した。

ヒューズが彼女に振られて、酔っ払って泣いていたのも雨の日だ。

まぁ結局、何度かアタックして結婚までこぎついたが。

私があの戦いの中で、多分涙を流したのも雨の日だ。

本当に泣いていたかどうかは、はっきりと覚えていないが。

そして…あの子が…

弱さをさらしてくれたあの子が、初めて涙を見せたのも雨の日だ。








見事な金の髪の彼が、目の前に立っていた。

彼は首を傾げると、少し寂しそうに微笑んだ。

『鋼の…?』

そう呼びかけると彼は驚いたような顔をして…





何故…泣く?

私の行動は、君を思ってのことなのに…



…ならばいっそのこと…この思いを伝えようか?

そうすれば、もう君は私に近付こうなどと思わないだろう?

その硬い右肩を掴み、そのしなやかな左手を掴み…

そのまま…引き摺り倒…





「…チッ…夢か…」

これは欲求不満以外のなにものでもない。

掛けていたシーツを乱雑にベッドの下に落とし、起き上がる。

ここ最近、似たような夢ばかりを見てしまって不眠気味だ。

今日のはまだいい方で、昨日なんか殺してしまっていた。

そんなこと…絶対にしたくないというのに。

……しないという自信はないのだが。

その前に見た夢では、嫌がる彼を無理矢理…

やけに鮮明な夢の記憶に、苛立たしくため息をつくしかない。

いっそのこと、この夢のままに貪ってやろうか?

そんな思いが頭をよぎったが、必死に自分を抑える。

そんなことをしたら、ただじゃすまない。

だが…それよりも…

この関係が修復不可能なまでに、壊れるのが堪えられない。

今はまだ、何とかなる範囲だと…思っている。

そうだ…





分かっている…分かっているんだ…

本当は…臆病な自分は…

拒否されるのが、怖いんだ。





いつからか…彼への気持ちから逃れる為に、逃げ道を確保してきた。

だが、逃げ道ばかりを用意しているうちに…

一体何から逃げているのかも…

その逃げ道にも…



迷い始めている。





頬を伝ったものは、汗だった。









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