告げてはならないと思っていた。

いや…今でも思っている…

だが、これ以上自分を偽ることは、私にとって苦痛になる。

このまま何事もないように振舞うには、もう限界だった。

もしかしたら、傷付けてしまうだけの感情になりかねない。

手に入らないものならば、いっそのこと壊してしまう。

そういう男なんだよ、私は。

…君は知らないだろうし、知りたくもないだろうけどね。



だから…告げたかった。

告げて拒絶されれば、さすがの私だって諦めるかもしれない。

もちろん確証はないけれど…

それに今の自分の状態なら、落ち着いて彼の言葉を聞けるのではないかと思っている。

まぁ…あくまでも推測でしかないが…





本当は…答えなど望んでいない。

どう足掻いても、自分は、男なのだから。

それにこれは彼にとって、重荷になるだけの想いなのだから。

それでも、告げたい。





答えてくれなくていい。

酷い我侭だと思う。

それでも、言いたい。



『君が好きだ』と。







「…中尉…」

「なんでしょう?」

普段よりも早く仕事を片付けた為か、今日の中尉はどこか上機嫌だった。

久しぶりに定時で帰れるのが嬉しいのだろう。

もしかしたら、休みだってくれるかもしれない。

……いや、それはないか。

「その…鋼の…と、アルフォンス君は…」

危ない危ない…

いくら彼に話があるといっても、一人だけ呼んだら明らかに意識しているとばれてしまう。

…まあ今更か…

「…彼らなら…もう次の目的地へ向かったそうですが…?」

驚いたような表情と共に告げられた言葉。

「…何だと?」

そんな話、聞いていない。

声が異様に低くなってしまったが、中尉は怯むことなく次の情報を与えてくれる。

「『大佐には後で言っておく』と、エドワード君が…」

「聞いていないぞ」

全く。これっぽっちも。

と言うより、そんな素振りも無かったぞ…?

「…急いでいたようですから…言いそびれたのではないかと」

少し思案したような中尉の言葉に、いつものように返事をする余裕がない。

それほどまでにダメージが大きかったようだ。

「…そうか、分かった」

そう言って中尉に退室を促す。

今のままだと、中尉にみっともないところを見られてしまいそうだった。

ドアが完全に閉じきってから、大きなため息が出た。





この私が、わざわざ今まで付き合ってきた女性達に、別れを告げたというのに…

今までのしがらみを捨ててまで、人生最大の告白をする決心をした途端に…

こうもあっさり逃げられるとは…







「ちょっとまってくれ…」

夕日が少し、目に沁みた。









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