今回も何の収穫もなかったようで、不機嫌そうな表情のまま急に帰ってきたと思ったら…

買い換えたソファが気に入ってくれたのか、彼はさっきからその上で寝息を立てている。

まるで猫だな…

そんなことを言えば、(本物の)鉄拳の一つや二つ飛んでくるだろう。

金の髪と同じ色のまつ毛が、少しだけ震えた。

その瞼の下には、人が持ち得ないような金の目が隠れている。

元々、色素の薄い人種なのだろうか…旅をしている割には肌が白い。

黙っていれば、本当に人形めいている。

「…可愛いものだな」

仕事の手を止め思わず呟くと、同じように彼を見ていたらしいアルフォンス君に忠告を受ける。

「それ…兄さんの前では言わないで下さいね」

「私もそんなに命知らずじゃないさ」

そう返すと、アルフォンス君の笑い声が微かに響いた。

兄の方だけでなく、この弟も元に戻れること切に願う。

「さて…アルフォンス君。約束を覚えているかね?」

自分で肩を叩くようにしてみれば、すぐに反応が返ってきた。

「あ、肩たたきですか?」

覚えていてくれてよかった。

これで彼が覚えていなかったら、少し寂しいところだ。

「今…ですか?」

「ここ数日、ずっと座りっぱなしでね…」

まぁ…自業自得なのだが。

「力加減が分からないから…痛かったら言ってくださいね?」

いそいそと立ち上がって私の後ろに来たのは、紛れも無く優しい少年だった。





鋼のが起きて一番に見たものは

「…………何だ…?」

自分の弟が自分の上司の肩をマッサージしている姿だった。

「やあ。おはよう」

「おはよう。兄さん」

「…おはよ…ってそうじゃなくてさ」

まだ寝ぼけ眼のまま、起き上がりながら彼は訊ねる。

「何やってんの?アル?」

「肩たたき」

明快でこれ以上ないほどの完璧な答え。

「いや…そうなんだろうけどさ…」

だが、彼の問いたかったことはそんなことではない。

寝起きのせいか、頭の回転がまだ上手く機能していないのだろう。

助け舟を出してやることにした。

「約束だっただろう?」

「ほら…手帳の…」

弟が口にした“手帳”という単語に、微かに眉をしかめながらも頷いている。

「ああ…あん時の…」

どうやら彼も覚えていたようだ。

兄弟揃って記憶力がいい。





仕事の手を休めることなく、彼らの話を聞いていた。

ただし、鋼のが起きた時から、かなり処理速度は遅くなったが…

それでも、肩の筋肉が解れていくような心地よい感覚に、素直に笑みがこぼれた。

「…将来…アルフォンス君みたいな子供が欲しいな」

「え?そうですか?僕も…大佐みたいなお父さんが欲しかったです」

お世辞だとは思ったが、それを差し引いても嬉しいものだ。

「俺は嫌だ」

私だってごめんだ。

本当の親子だったら、手が出せんではないか。

「素直で可愛くて…とても親孝行だしね」

その点、アルフォンス君なら問題ない。

いや……問題はあるのだが…

「何だか照れくさいです…」

鎧姿でなければ、思いっきり抱き締めてあげたいのだが…

前に抱き締められた時の痛みが蘇り、思いとどまる事にした。

力加減が分からないというのは本当らしいな。

その割には上手に肩を叩いてくれている。

ここ数日の疲れが、ゆっくりと溶けて消えていくようだ。

手持ち無沙汰に、弟と私の方を見ていた彼は急に呟く。

「でもさぁ…まず、大佐が結婚できるとは思ねぇんだけど…」

「ふふ…甘いな鋼の。結婚しなくても、子供は出来る」

「「…最低…」」

アルフォンス君の動きが止まったことで、自分の言った言葉を反復する。

「……誤解だ。養子をもらうという意味で…」

「なるほど」

再び肩に加わった程よい力に、アルフォンス君は本当に納得したことを知る。

「…どーだか」

くっ…このひねくれ者め…

「でも、あんたに子供か………うわ…似合わねぇ…」

そう言った表情が、本当にそう思っていることを伝えてきて、思わず苦笑い。

「そうか…やはり私には子供は似合わないか…」

「そんなことないですよ。パーティーの時…子供達の相手が上手でしたよ?」

「そうかね?」

振り返るようにしてアルフォンス君を見上げると

「だって大佐がいなくなっちゃった後『あのおじさんはどこ?』って皆に聞かれちゃって…」

「おじさん…か…」

子供達に問い詰められるアルフォンス君の姿が目に浮かぶようで、少し申し訳なかったなと思った。

「まぁな…大佐は子供嫌いかと思ってたから…びっくりした」

「好きとは言い切れないが…嫌いではないさ。それに…」

鋼のの顔を見ると、思わず笑みが零れた。



「子供の寝顔はとても可愛いからね」

そう呟くと、アルフォンス君の爆笑が響き渡った。









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