始まりの瞬間を覚えている。





それは…



生まれた瞬間でもなく、目を開いた瞬間でもない。

立ち上がった瞬間でもなく、笑った瞬間でもない。

世の理を曲げようとした瞬間でもなく、罪を犯した瞬間でもない。



それらは確かに始まりであるけれど、その時──それをしようとした時──は始まりだとは意識していないから。

気付かずに流れていく時の、刹那。

後から思い出して、区切りをつけているだけのこと。

忘れていった時の流れなど、はかりしれないほどあるはずなのだから。







だが俺は、始まりを覚えている。

後から思い出したわけではなく、“その時”に始まりだと分かった。





あの瞳が、俺を見つけた瞬間。



「これからだ」



誰かに言われた気がした。



それを言ったのは、俺かもしれないし…

あいつかもしれない。





だから、始まり。





例えその時、歩き出そうとしていなくても…

きっと始まってしまっていただろう。










始まりの瞬間を、覚えている。





それは足掻くことを選んだ瞬間だ。









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