多分、今の自分の顔はニヤケまくっているだろう。

あんな風に挑戦的な答え方をしてしまったが、本当は答えなどとっくに出ている。

いろいろとしがらみもあるが、それでも俺は…その手を取るつもりだ。

あまりにも締まりがない顔をしていては、余計な詮索されてしまうので、両手で両頬を叩いて気合を入れる。

右頬がやけに痛くて、右手の力加減を考えていなかったことに気付く。

それでもそんな自分がおかしくてまた笑ってしまった。

「エドワード君…」

気遣うような声が聞こえて、今の自分の不審さを見られてしまったかと焦って振り返る。

だが、そうして目に入ってきた中尉の顔は、どこか深刻さを伴っていた。

「少し…いいかしら?」

断る理由なんてこれっぽっちもないので、大人しく中尉について行った。





連れて行かれたのは会議がないため、空いていた会議室だった。

イスに腰掛けるようにすすめられ、長い話を覚悟して座った。

同じように腰掛けた中尉が、机の上で指を組んでこう切り出した。

「気を付けて」

「何に?」

その銃を扱うには繊細すぎるような指に気をとられていて、表情は酷く滑稽なものになっていただろう。

「…大佐に」

彼女の最初に言った言葉の主語だとは思えず、思わず首をかしげて詳しい説明を求める。

「私は怖いの…」

自分には彼女が何を恐れているのか、見当も付かなかった。

「あなたと大佐は…その…とてもお似合いだと思うの…」

「えっ!?な、何を…」

知られていたこともそうだが、そう言って貰えるとは思っていなかったので、イスから立ち上がりそうなほど驚いた。

「でもね…」

中尉は更に表情を曇らせる。

もしかして…中尉も大佐のことが…?

そりゃ長い間、一緒に危険な仕事もしてきたんだからな…

そんな感情が生まれてもおかしくないか。

「あ〜そうなんだ…あ…じゃあ俺…邪魔かな?」

ただ『敵わない』…と思った。

「エドワード君?」

想いが通じたと思った途端これかよ。

「大丈夫だって。どうせ男同士なんだし、俺なんかより中尉といる方が大佐のためになるし…」

「違うの」

どこか怒ったようにぴしゃりと言い放たれて、言葉が出てこなくなった。

「落ち着いて。誰もあなたと大佐の邪魔をしようとはしないわ…」

優しい笑顔に、中尉の言うことならどんなことでも信じられそうだと思った。

「…じゃあ…何が怖いの?」

「あなたと大佐の気持ちがすれ違うこと…」

「は?いっつもすれ違ってるけど…?」

目指すものが違うのだ。

当然、道もずれて行ってしまうのだろう。

そう考えると、急に不安になった。

「そうじゃないの…もっと…即物的なもの」

何か…問題があるのだろうか?

「エドワード君には悪いけど…あなたはまだ、子供なの…」

他の人間には子供だと言われたことがあるが、中尉に面と向かってそう言われたのは初めてだと気付いた。

「…だから?」

子供だから相応しくない?

でもさっき中尉は、お似合いだと言ってくれた。

矛盾したことを言われて、さすがに中尉相手だがいらいらしてきた。

もともと気の長いほうではないのだし。

「だから……」

そこまで言うと、中尉はまた言いよどむ。

「いいよ。言って?じゃねぇと…何か気になっちまう…」

他の人間が相手なら、多分あまり気にはならないだろう。

だが、今まで最も大佐の近くにいたこの人の言う事には、何か深い意味があると直感で思った。

「…ねぇ、エドワード君。もし大佐が、あなたの体を求めてきたら…どうする?」

「俺の…?」

アルをもとに戻す為に、俺の全ては捧げると決めた…

でも…



『誰かの犠牲の上で、僕は元に戻りたくない』

『また罪を重ねることはしたくない』



いつかのアルの言葉が、俺の背を押してくれた。

「体だろうがなんだろうが…くれてやる」

中尉は驚いたようだが、安心したように微笑んだ。

「そう…少し…安心したわ…」

「中尉は考えすぎだよ」

女性は…いやこの人は…細やかな性格なのだろう。







別に献身的な恋じゃない。

俺は俺のために、あいつを好きになった。

だからあいつが求めるのなら…



魂だって、くれてやる。





弟の体をもとに戻すのも…

もとの体に戻るのも…

あいつと一緒にいるのも…

結局は全て俺のためなんだから。









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