反抗的な答えでも、彼の答えははっきりしている。
そもそもあの子は嫌なら嫌だと言うし、断るならあの場で断るだろう。
これはもうOKをもらったと判断して間違いない。
だが…浮ついた気分は一気に凍りついた。
(その先は?)
初恋が実った少女でもないわけだし、この想いが伝わっただけで満足などできようもない。
気が付けば、もっと、と貪欲に求める自分がいた。
いつかこうなるだろうとは、思っていた。
だが自分の理性が、こんなにも脆いとは知らなかった。
逆に言うなら、自分の本能とは凄まじい。
こんな子供に?
一回りも年の離れた少年に?
新たな発見をした。
想いを伝えることに気をとられて、その先のことを失念していた。
いつものように事務的な仕事をこなしていく。
もちろん、その速度はいつもよりも明らかに遅い。
「何サボってんだよ」
彼が少し照れくさそうに、笑って近付いてくる。
愛しいと思っているのに、笑顔を返せない。
今、自分の頭の中にあるのは…
『どうやってこの体を引き摺り倒そう?』
『どこから噛み付いてやろう?』
…あまりにも凶暴すぎる想い。
「どうしたんだ?ぼーっとして…体調でも…」
心配そうに伸ばされた手を、引っ張りそうになる自分を必死に抑える。
「触るな…」
「…大佐…?」
一度止まった彼の手は、再びこちらへ差し伸ばされる。
機械鎧ではない左手なので、あまり強く掴んでしまったら痕が残ってしまうだろう。
それでも…そうしたいと、思っている自分がいる。
「触るな!」
今度こそ叫んでしまった。
これ以上、無防備に近付かれたら…
傷つけない自信が…
ない。
「出て行ってくれ」
「な、何で…」
「何をするか分からない」
「…え?」
言葉の意味を、的確に捉えられない子供。
言葉の裏に隠された、醜い肉欲に気付けない子供。
「暫く私に構うな」
自分でもぞっとするような声が出た。
少なくとも、想いを伝え合った人間に向けるものではない。
自己嫌悪をする間もなく…
傷ついた表情を浮かべ…
彼は、走り去った。
そんな辛そうな表情はさせたくなかった。
ああ…そんな顔はしないでほしい。
できることなら…君は笑って…
だが、これ以上…この想いを伝えたら…
そんな表情をさせるだけではすまないんだ。
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